空と文字(SEA)

久米栄左衛門


松男:高子ちゃん,讃岐三白って何か知ってる?
高子:えーと,香川県で採れる白いもの三つでしょう。以前おじいちゃんから聞いた
   ことがあるわ。砂糖と塩でしょう。それから今では採れないけど,綿だったかな。
松男:ピンポン。正解。ところで,塩だけど香川県ではいつ頃から塩が作られている
   のかなあ。
高子:わからない。砂糖はたしか江戸時代よね。
   (そこで,高子さんと松男君は製塩のことについて調べるために,JT塩業資料
    館に行くことにしました。JT塩業資料館は香川県坂出市にあります。見学し
    た後二人は,その感想を話し合っています。)
高子:今日はとっても面白かったわ。
松男:ぼくも面白かったよ。特に,昔の塩の作り方を体験するコーナーは大変だった
   けど,とても心に残っているよ。
高子:わたしは久米栄左衛門のことがよく分かったわ。「坂出塩田墾田の図」や
   紹介の文を読むと久米栄左衛門って素晴らしい技術者ということがよく分か
   ったわ。
松男:そうだね。ところで,ぼくこの間「通賢祭り」という祭りを見に行ったんだけど,
   香川県には久米通賢という人もいたね。久米通賢は鉄砲を改良した人で,
   祭りでは火縄銃を実際に撃つたっりして,とても迫力があったよ。久米栄左衛
   門と久米通賢って名前が似ているけど兄弟か何かかな。
高子:そうね。おなじ姓だから親戚かもしれないわね。
   (そこへおじいちゃんがやって来ました。)
おじいちゃん:2人とも今日は何をしているんだい。
高子:あっ,おじいちゃん。わたしたちいま,JR塩業資料館に行って来たんだけど,
   香川県で初めて塩田を始めた久米栄左衛門と「通賢祭り」の久米通賢は,
   親戚か兄弟か何か関係があるの。
おじいさん:それはね,同じ人なんだよ。久米栄左衛門通賢(くめえいざえもんみち
   かた)というのが本当で,最初の名と後の名をいろいろ使っているが,同じ人
   なんだ。
松男:久米通賢は鉄砲を改良したのでしょう。塩田も開発したの?
おじいさん:そうなんだ。久米通賢は香川県の白鳥町というところに生まれた人だが,
   小さい頃から器用で,時計屋で修理に6両かかると言われた時計を2両で直した
   とかいう話はたくさん伝わっている。そして,鉄砲の改良だけでなくて,「どんどろ
   付木」というマッチや,「養老の滝」という名のポンプ(揚水機)も作ったりしたんだ。
   そして,坂出に塩田を作り,塩も作ることに成功したんだ。とっても優秀な技術者
   だったんだよ。
高子:久米栄左衛門が坂出に塩田を作ったから「讃岐三白」の一つの塩の生産が
   ずっと盛んだったのね。
おじいさん:そうだね。江戸時代のことだ。
高子:でも,日本は四方海で囲まれているでしょう。どうして香川県で塩作りがさかん
   になったのかしら。
おじいさん:坂出が遠浅といって広い砂浜のある地形だったことも大きな原因だけど,
   それよりは香川県が夏も冬も雨が少ない瀬戸内式気候ということが大きな理由
   だね。塩の取り方は大きく変わったけど,昔の海水を乾かすという方法には香川
   県の気候が適していたんだね。
松男:今日見てきたJT塩資料館にも製塩方法の移り変わりが書いてあったよ。
高子:人が生きていくには,毎日10グラムの塩をとる必要があるって書いていたわ。
   だから,生きていく上に必要な塩をいろいろ工夫してとっていたのね。
おじいさん:昔は海水を土器などで煮詰めてとることをして,次に「藻塩焼き」という
   方法でホンダワラやカジメという海草を海岸に積み重ね,それに海水をかけて
   乾かし,焼いて,その灰を塩水に溶かして濃くなった海水を乾かして塩をとった
   んだ。
松男:すごく大変だったろうね。
おじいさん:そうだよ。とても力がいるのに,塩は思うほどとれなかったんだ。それを
   塩田という方法でとったのが久米栄左衛門なんだ。塩田は細かい砂に海水を
   しみこませて太陽の熱と風の力で濃い塩水を作るところだね。これを入浜式塩田
   といっているが,入浜式塩田は潮の満ち引き利用しているんだ。満潮の時,地下
   から海水がしみ上がって細かい砂に塩が付くだろう。この砂を集めて海水をかけ
   て濃い塩水にする方法だよ。
高子:今日体験したのがこの入浜式塩田だったのね。
おじいさん:この入浜式塩田が350年くらい続いてから流下式塩田に変わったんだ。
松男:それも今日の資料館にあったね。
おじいさん:砂のかわりに黒いビニルを敷いて緩やかな斜面を作り,海水を流して濃い
   食塩水をつくる。その濃くなった海水を一カ所に集めて竹の枝を組み合わせて作
   った枝条架からすこしずつ落として海水の5倍の濃さになるまで繰り返す方法だね。
高子:入浜式塩田よりは近代的だけど,でも大変そう。
おじいさん:今は,イオン交換法といって,工場で一度に大量の塩を作ることもできる
   ようになってきたんだ。
高子:でも,いろいろな料理などで昔の塩を使うと味が良くなるというので手作りの昔の
   塩を使っているコマーシャルも最近見かけるわ。
おじいさん:そうだね。工場でできる塩は,混ざりものがなくて,風味がない。昔ながらの
   塩の作り方がいいという人もたくさんいるんだよ。これから久米栄左衛門の坂出
   墾田の碑を見に行こうか。
   (3人は商工会館裏の坂出天満宮境内にある碑を見に行きました。)


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