空と文字(SEA)

野網和三郎


高子:松男君お寿司好き?
松男:ああ,好きだよ。ごちそうしてくれるの?
高子:そうじゃないの。松男君ってどういう魚が好きなのかなと思って聞いたのよ。
松男:ああ,そう。がっかり。お寿司の魚といったら鯛やマグロそれにハマチやエビ
   なんかも大好きだよ。やっぱり瀬戸内海の新鮮な魚からとった刺身は最高だ
   ね。
高子:まあ,松男君ったら。生意気なことを言って。ところで,松男君,そのような
   お魚どうやって採っているか知ってる?
松男:そりゃあ,漁師さんが船で採りに行くんだろ。でも,そういえば,最近は寿司や
   さんなんかの魚やエビは外国から輸入したものが多いらしいね?
高子:そうらしいわね。瀬戸内海で採れる魚じゃ足りないのかしら。
松男:瀬戸内海以外にも・・・,日本は周りが海だから,いっぱい魚が採れそうなんだ
   けどなあ。
   (そこへおじいちゃんがやってきました。)
おじいちゃん:おやおや二人ともここで何を話しているんだい。
高子:瀬戸内海の魚の話。瀬戸内海の魚ってとってもおいしいけど,それじゃ足りない
   から外国から魚を輸入してるの?
おじいちゃん:まあ,そういうわけだね。だけど,外国の魚だって日本人と無関係じゃ
   ないんだよ。
高子:それってどういうこと?
おじいちゃん:それはね,養殖といってな。いい魚やエビを船で採りに行こうとしても,
   どうしても気候や海流の影響で,いつも同じようには採れないことがあるだろう。
   それに現代のように大勢の人が毎日のようにたくさん魚を食べるようになると,
   どうしても漁師さんが採るだけの魚では足りないんだ。
松男:それじゃあ,どうすればいいの?
おじいちゃん:それが養殖という方法なんだよ。魚をある場所で飼って餌をやり,そこ
   で大きく育てるという方法なんだ。この魚の養殖という方法は日本で始められた
   ものなんだよ。その養殖が今では世界に広がっているというわけだ。そのような
   魚の養殖を最初に考えたのは野網和三郎という人で,香川県引田町の人なん
   だよ。
松男:魚を人間の力で育てるんだね。ニワトリや牧場の牛みたいだね。
おじいちゃん:そうそう,それと同じさ。もっとも,ニワトリの場合は養鶏,牛の場合は
   牧畜などというけどね。野網和三郎は水産学校に行っているときに御木本幸吉
   の真珠の養殖を見て感動して魚の養殖を考えついたらしいね。
松男:魚の牧場というわけか。でも,海には柵がないから魚が逃げてしまわないの?
おじいちゃん:そうだね。陸上の場合と違って簡単に柵を作るというわけにはいかない
   ね。それで,最初は海水の池を作って外の海に逃げないようにしてそこで養殖を
   始めたんだよ。今でも引田町にある安戸池という池なんだけど,魚の餌や海水
   に十分な空気があるように工夫したり,大変苦心したらしいんだよ。
松男:へえー。大変だったんだね。そこでどんな魚を養殖したの?
おじいちゃん:最初はハマチという魚だ。松男君は食べたことある?
松男:あるある。ぼく大好きだよ。
おじいちゃん:和三郎は養殖しやすい魚として最初にそのハマチを選んだんだね。
   そのうちに,池の中ではなく外の広い沖の方でも養殖をするようになって,魚
   の種類もハマチ以外に鯛なども養殖できるようになるんだ。外の海でやるとき
   は枠網で囲って逃げないようにするんだよ。
高子:だけど。わたし,だいぶ前だけどその養殖の魚がたくさん死んでしまったという
   話を聞いたことがあるわ。
おじいちゃん:赤潮のことだね。実は1970年頃から瀬戸内海も海がだいぶ汚れて
   きて,海水中のプランクトンという魚の餌になる小さな生物がたくさん繁殖して
   きたんだ。異常繁殖というんだけど。
松男:赤潮ってぼくも聞いたことがあるよ。だけど,魚の餌になるプランクトンだったら
   たくさんいた方が魚にとってはいいんじゃないの?
高子:私もそう思ったんだけど,やっぱりたくさんいすぎてもいけないんじゃないのかし
   ら・・・。
おじいちゃん:プランクトンがいっぱいいると海水中の酸素の量が少なくなってしまうん
   だよ。プランクトンの呼吸でたくさんの酸素が使われてしまうからなんだ。プランク
   トンだって死んでしまうんだよ。
松男:そうか,それで魚が呼吸できなくなってしまうのか。いくら餌がたくさんあるといっ
   てもだめなんだね。
おじいちゃん:赤潮の被害を避けるために,考えたのは魚のいる枠網を赤潮のこない
   場所へ移動するという方法だ。
高子:でも大きな網を動かすのって大変でしょうね。
おじいちゃん:そうだね。移動するのには大変な手間がかかるし,魚の餌を運ぶの
   だって大変だね。
松男:それでも,間に合えばいいけど,間に合わなければせっかくの苦労が水の泡
   だね。
おじいちゃん:そこで,赤潮の被害を防ぐためにいろいろな研究が行われているんだ。
   枠網を一時的に水中に沈める方法だとか,赤潮に強い魚の研究や赤潮のもと
   になるプランクトンの研究など,赤潮の研究は地元の香川大学を中心にたくさん
   の優れた研究が行われているんだよ。
高子:そういえば,私テレビで赤潮注意報がでているの見たことがあるわ。
おじいちゃん:それも,どのような温度や海水濃度で赤潮が発生しやすいかを研究し
   た数多くのデータをもとに予想したものなんだ。
松男:海だからといっても魚は簡単に養殖できないんだね。
おじいちゃん:この魚の養殖は現在では世界中に広まったが,まだまだ,いろいろ
   技術的に難しい点が多い。この養殖では世界の最先端をいく日本は,海外で
   いろいろな技術指導をしているんだよ。
高子:わたしも,もっともっと勉強して,世界のいろいろな人たちと協力し合って,二十
   一世紀が本当にいい世紀になるようにがんばっていきたいです。
松男:ぼくも,魚のことを勉強して外国へ行ってみたいと思います。


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