空と文字(SEA)

二宮忠八


松男:高子ちゃん外国へ行ったことある?
高子:まだないわ。外国どころか,私はまだ飛行機にも乗ったこともないのよ。そう
   いえば松男君はこの間お父さんとフランスにサッカーを観に行っていたのよね。
   うらやましいわ。
松男:いや,別にそういうつもりで言ったわけじゃないんだけど。海外といえば,今は
   飛行機で行くものと思っているけど,昔はそうじゃなかったみたいだよ。アメリカ
   のペリーが来たのも船だったし,勝海舟がアメリカに行ったのも咸臨丸という船
   だったんだろー。
高子:そうね。飛行機って昔はなかったものね。ところで,飛行機っていつ頃できた
   のかしら。そういえば,今日おじいちゃんが海外旅行から帰って来るので空港
   に迎えに行くんだけど,その時聞いてみようかしら。
    (二人は高松空港へおじいちゃんを迎えに行きました。やがて,おじいちゃん
   が荷物を持って飛行機から降りて来ました。)
高子:お帰りなさい。おじいちゃん。
おじいちゃん:ただいま。わざわざ迎えに来てもらってありがとう。後で二人におみ
   やげをあげよう。
高子:ありがとう。ところで,おじいちゃんは海外旅行これで何回目なの?
おじいちゃん:うーん。これでもう十回近くになるかな。最近は飛行機が発達して
   外国にも簡単に行けるようになったね。本当に便利な世の中になったよ。
高子:ところで,おじいちゃん。飛行機って,ライト兄弟が発明したんでしょ。
おじいちゃん:そうだよ。よく知ってるね。1903年のことだ。12秒間に36メートル飛ん
   だと記録にあるよ。でも,実はそれよりも前に気球で作った飛行船やグライダー
   は発明されていたんだ。このグライダーの仕組みとエンジンを組み合わせた
   飛行機を多くの人が発明しようと努力していたんだよ。
松男:その発明の競争に1番乗りしたのがライト兄弟だったんだね。
おじいちゃん:そういうことだね。ところで,香川県にも飛行機の発明をしようとした人
   がいたんだよ。知ってるかな?
高子:本当?すごいわねえ。誰なの?平賀源内?
おじいさん:そんなに前じゃないよ。明治時代に入ってからのことさ。二宮忠八とい
   う人なんだが,ライト兄弟より12年も早く,人間が乗れる飛行機の設計をした
   んだよ。
松男:すごい人がいたんだね。
おじいちゃん:二宮忠八は愛媛県の八幡浜町に生まれたんだ。この八幡浜はたこ
   あげがさかんな町だったそうだ。二宮忠八は,「ツバメだこ」とか「セミたこ」と
   いった変わったたこをたくさん発明したらしい。特に珍しかったのは「忠八だこ」
   といって,大だこの糸を強く引くと子だこが離れ糸をつたわっておりてくる仕掛
   けのたこだったんだ。
高子:すごく熱心に工夫してたこをつくったのね。
おじいちゃん:そうだね。そしてこのたこを売ったお金で勉強を続けたんだ。それか
   ら,軍隊に入って24歳の時,樅の木峠でカラスの飛んでいる姿を見て,つばさ
   の角度で飛ぶことに気がついたんだよ。それを記念してそこには「魁天下」と
   いう石碑が残っている。この世の中で一番最初に気がついたという意味だね。
松男:カラスから見つけたんだ。きっとカラスのような形の飛行機を考えたんだね。
おじいちゃん:それじゃ,どんな形の飛行機を作ったか見に行こう。仲南北小学校
   にその模型が残っているからね。
    (車は方向を仲多度郡仲南町にある仲南北小学校に向かいました。そして
    仲南北小学校にある飛行機の模型を見せてもらいました。)
高子:これがカラスから思いついた飛行機なの。
おじいちゃん:そうだよ。「カラス型飛行機」と呼ばれている模型だよ。これをつくる
   までにたくさんの鳥や昆虫それからトビウオの様子を観察していろいろ工夫し
   たんだ。そして,プロペラは竹とんぼからヒントを得てつくったらしいよ。
松男:これはうまく飛んだの。
おじいちゃん:最初からうまくは飛ばなかったようだ。いろいろ工夫したらしいけど,
   そのとき,たこ作りの経験が役立ったんだ。そして明治24年丸亀の練兵場に
   おいて世界で初めて模型の飛行機を飛ばしたんだ。
   (次にたくさんのプロペラと羽のついた模型がありました。)
高子:これはカラスじゃないみたい。
おじいちゃん:模型でうまくいったので二宮忠八が次に考えたのは・・・
松男:人間の乗った飛行機を作ること。
おじいちゃん:そのとおり。人が乗ってもうまくいくようにプロペラの羽を4枚にし,
   つばさも2枚から4枚に増やしたんだ。そして,人がペダルをこぐ力で空を飛
   べるようにと考えて作った「タマムシ型飛行機」だよ。ライト兄弟より10年も前
   のことなんだ。
高子:ここまでうまくいっていたのに,どうしてライト兄弟に遅れてしまったの。
おじいちゃん:その点だけど,残念なことにその頃,日本と中国が戦争をしてそれ
   どころでなくなったんだ。忠八は軍に飛行機の重要性を訴えたんだが,認め
   てくれなかった。仕方がないので軍をやめて会社で働きながらお金を貯めて
   飛行機を作ろうとしたんだ。でも,ライト兄弟に先を越されてしまったんだ。
松男:もう少しだったのにね。
高子:そうね。本当に残念ね。戦争なんかやったばっかりに・・・。ここまで来たの
   だから「魁天下」の石碑も見に行きましょう。
松男:ぼくも行きたいな。
   (こうして3人は石碑を見に出かけました。)

雲(白) 三木茂へ

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