松男:香川県に昔,恐竜はいたのかなあ。 高子:これまで香川県の山(讃岐山脈)から魚の化石やマンモスの骨が出たって 聞いたことがあるわ。この讃岐平野も昔は瀬戸内海の海の底だったそうよ。 松男:へえ,ところで,この間お父さんたちといっしょに高松市の隣の三木町と いう町にある太古の森というところに行ったんだけど,そこに大きな恐竜の 模型があったよ。太古の森はまだ森にはなっていないけれど,とても大きく なる木がいっぱい植えてあるらしいんだ。 高子:わたしそれ聞いたことがあるわ。それってメタセコイアという木じゃないの。 松男:ああ,そうそうメタセコイア,高子ちゃんよく知っているじゃないの。 高子:うん。おじいちゃんから聞いたことがあるの。そういえば,わたし達の学校 の校庭にもあったと思うわ。 松男:ああ,ぼく達の大先輩が卒業記念に植えていったものだって木の前に書い ていたように思う。 高子:何でも昔,三木茂博士という偉い先生がいて,その先生が発見した木だそう よ。博士は木の化石の研究をしていて,現在のセコイアという木によく似た木で 別の種類の木が大昔にいっぱい生えていたことをつきとめて,現在でもどこか で生きているのじゃないかと考えたのですって。今はもう化石でしか残っていな い木が現在でも生きているって考えたのよ。 松男:へえ,そういうのって「生きている化石」っていうんじゃないの。ぼくそれによく 似た話で,シーラーカンスっていう魚の話を聞いたことがあるよ。それで,その 木はあったの? 高子:ええ,中国の奥の方にあったそうなのよ。 松男:中国ってあの広い国だろう。すごいなあ。それがメタセコイアというわけか。 高子:ええ,高さが35m,直径が2m以上もあるとても大きな木だったそうよ。 松男:そのメタセコイアはセコイアとどう違うの? もっとも,僕はセコイアもよく知ら ないんだけど。 (二人が話をしていると,そこへちょうど高子ちゃんのおじいさんがやってきま した。高子ちゃんはそれまでの話をおじいちゃんにして,おじいちゃんにも会話 に加わってもらうことにしました。) おじいちゃん:松男君,アラカシの木って知ってるかな? あのアラカシの木の葉は どんな風に枝についているのかなあ。 松男:どんな風についているかといわれても・・・。 おじいちゃん:葉っぱが枝の両側に一定の間隔で交互についているだろう。ちょっと むずかしかったかな。こういう葉っぱのつきかたを互生っていうんだけど,セコ イアの葉っぱもそういう形をしているんだ。ところが,化石に出てくる大昔の化石 をみるとその葉っぱの形がセコイアとは少し違ったものが出てくるんだね。 松男:へえ,どんな形をしているの? おじいちゃん:カエデやクチナシの木って知っているかな。あれは葉っぱが枝の両側 に同じように伸びた形をしているんだ。それを対生というんだけど,そんな形の セコイアが化石の中には出てくるんだよ。 松男:それは葉っぱが化石になるときに,ちょっとずれて形が変わっただけじゃない の? おじいちゃん:いや,そうじゃない。たくさんの葉がはっきり左右対称についているん だよ。それで三木博士は,それは昔セコイアには現在のものとは違った形の ものがあったのじゃないかと考えたんだよ。 松男:へえ,それはすごいな。それで,その昔の葉っぱの形の違うセコイアをメタセコ イアと名付けたのか。 高子:松男君すごい!よくわかるわね。 おじいちゃん:詳しくいうと,葉っぱ以外にも球果の鱗片の並び方もセコイアと違って 対生だったのだけど,これは顕微鏡で見ないとよくわからないかも知れない。 松男:だけど,その化石で見つけたメタセコイアがなぜ現在でもあると考えたんだろう? 高子:私もそう思ったんだけど,生物を研究していると,新しい種類の生物が見つかる と,やっぱり生きている本物に会いたくなってくるのじゃないのかしら。 おじいちゃん:おじいちゃんもよくわからないが,たぶんそうだろうな。それに,当時 外国でもとても大きなセコイアの木がたくさんあるという話もあったらしい。 松男:それが中国で見つかったってわけか。化石しかない木を探しに世界を探検する, ワクワクするなあ。ぼくも何か探しに行ってみたい気がするよ。 おじいちゃん:三木博士の論文が発表されてから5年目のことだ。やはり,論文が正し かったということだね。 高子:日本より何十倍も広い中国の奥地というと,今でも行くのは大変だと思うけど, 当時は交通の便も今とは比較にならないくらい悪かったと思うけど,探検旅行も さぞかし大変だったでしょうね。 おじいちゃん:戦争中ということもあって三木博士は中国の調査には行けなかったが, 中国の研究者が三木博士の論文を読んで一生懸命探したんだね。 松男:苦しいけど,本当に会いたいものをどこまでも探し求めていく。探検というのは いつの時代もそんなものじゃないのかな。簡単に見つかるような探検じゃ,あまり 面白くないような気もするけど・・・。 高子:それもそうね。どちらにしても,中国で化石どおりのメタセコイアの木が見つかっ た時の三木博士の気持ちはどんな気持ちだったでしょうね。 松男:バンザイって跳び上がるほどうれしかったんじゃないのかな。ぼくにもわかるよう な気がするよ。 高子:まあ,松男君たら,わかったようなことを言って・・・。 松男:ところで,太古の森のある三木町という町なんだけど,緑の木々が多くてとても いい町なんだけど,三木町という名は三木博士の名前と関係あるのかな? おじいちゃん:そういえばそうだね。偶然なのかな。でも,三木町という町は1955年に 5つの村が(翌年に残り1つの井戸村も)合併してできた町だけど,三木博士が メタセコイアを発見して世界中の注目を浴びたのは戦争中の1941年のことだか ら,町の名前を決めるときに,三木博士のことも参考になったのかも知れないね。 松男:うん。ぼくもそんな気がする。少なくとも三木という三つの木のうちの1つはメタセ コイアのことじゃないかな。うん,絶対そうだよ。 高子:そうね,私もそう思うわ。太古の森のメタセコイアがこれからもどんどん大きくなっ ていくのが楽しみね。 おじいちゃん:メタセコイアは香川県が世界に誇れる木なんだ。君たちのようにこれから 未来を担って生きていく若者達が,この木のことをよく知り,大切に育ててくれると 本当にうれしいよ。そして,地球から緑がなくならないように見守っていってほしい と思います。 高子・松男:はい。よくわかりました。 |
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