やまじ風
                                    森 征洋
やまじ風(かぜ)
  愛媛県東部にある法皇山脈から瀬戸内海に面した平野部に吹き下ろす南よりの強風を「やまじ風」 という.やまじ風はフェーン現象を伴い,吹き始めると気温が上昇し,吹き終わると下降する. 地元では,元々,南よりの強風を「やまじ」と呼んでいたが, 気象台の調査報告書などで「やまじ風」と呼称されたことから,この呼び方が一般的になった. 岡山県の「広戸風」,秋田県の「清川だし」とともに日本の3大局地風(悪風)に数えられる. 局地風の種類としては,広戸風とやまじ風は「おろし風」で,同じ現象であるが, 清川だしは地峡風なので,発生原因が異なる.
 やまじ風は,古い文献では愛媛県宇摩郡の宇摩平野で吹く風であると記載されているが, 市町村合併の結果,宇摩郡という地名は消滅している.かつて宇摩郡にあった地域は, 新居浜市と合併した別子山村を除いて,2004年に最終的に1つの市として統合され,四国中央市が誕生した. やまじ風は,四国中央市の平野部で吹く風ということになる. やまじ風は,豊受山の北麓にあたる寒川,豊岡,土居でとくに強く吹くと言われている.
 発達したやまじ風の場合,フェーンを伴った南よりの強風が, 西は松山平野から,東は香川県西部の広い範囲に及ぶ (紀井ほか,2008).
 やまじ風は,家屋の倒壊や破損,作物の倒伏など, 建造物や農作物などに強風災害をしばしば引き起こしてきた. 最近では2007年5月のやまじ風(紀井,2008) により,四国中央市で農業被害92カ所(1.3億円),新居浜市で電柱の倒壊などの被害が発生した (愛媛県の気象2007年,p.14-15)
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 やまじ風は年間を通じて見られるが,春にもっとも多く発生する. やまじ風が発生するとき, 天気図上には,温帯低気圧の中心が東シナ海,朝鮮半島,日本海などに見られることが多い. また,台風の中心が四国や九州の西側を通ったり,日本海を通るような場合にもやまじ風が発生する. この理由は,このような気圧配置のとき,南よりの気流が四国山地を越えるようになるからである.
 安定成層をした気流が四国山地を越えるとき,地形の影響で収束を受け, 南風成分がある程度以上強くなると, 法皇山脈の北側斜面を強い風のまま吹き下りるようになる. このように山頂から強風が吹き下りてくる現象をおろし風といい,やまじ風はこの地方での呼び名である. 春にやまじ風が多く発生するのは,この時期,温帯低気圧が西日本の北方を多く通過するようになるためである. 春に発生するやまじ風は「春やまじ」と呼ばれ,発生数が多いだけでなく,猛烈に発達するものもあり, 強風が10時間以上にわたって吹き続ける場合がある. 秋には台風によるやまじ風が加わる.台風により強烈なやまじ風が発生することがある.