平成16年度 未来学習(総合的学習)
 
○ テーマ

経験を統合し,よりよい生き方を創造する総合的学習
 
 
1 培いたい資質・能力
                【情報活用能力】  
参画態度
 情報を扱う際の心構えや責任感等を踏まえ,自ら情報を受信・発信する対象を拡げていく態度
 
実践力
 生活や教科等の学びを生かし,必要な情報を収集・判断・創造し,適切に発信しながら問題を解決していく力
特性理解
 情報の影(モラル,マナー)や情報の特徴(相手や目的にふさわしいものなど)に対する正しい理解
 
             【コミュニケーション能カ】  
協働態度
 協調性や自己開示,相手にきちんと向き合う態度,相手から学ぼうとする姿勢などを総称した態度
実践力
 自分(考え方,風土,言語,文化等)とは異ったものをもつ人とよりよく話したり,その話を聞いたりする力
特性理解
 会話や話し合いに対する価値認識,コミュニケーションの構成要素や構造に対する理解
 
 しかし,総合的学習が学習指導要領にもあるように「各教科で身に付けられた知識や技能を相互に関連付け,総合的に働くことをめざすもの」であるならば,各教科で「思考力」の育成をめざしている本校では,総合的学習という実の場において,各教科の「思考力」がどのように発揮されるのか,どのようにその育成を図らなければならないのか,について考えていく必要があるだろう。
 では,総合的学習における「思考力」とは,どのようなものなのであろうか。
 
2 総合的学習における「思考力」
 
 本校では,「子どもたちに確かな学力をはぐくみ,それを評価して伝えたい」という願いから,平成14年度より総合的学習においても観点別の3段階評価を行い,その結果を子どもたちや保護者に伝えている。
 その際,子どもたちや保護者が評価項目を正確に,しかも分かりやすく理解することができるよう,情報活用能力やコミュニケーション能力,対象理解の各要素を他教科と同じ4観点に分類・整理しようとした。
 これまでに作成していたマトリックスを基に特定しようとしたところ,情報活用能力やコミュニケーション能力の実践力の部分に,「思考力」に相当するものが含まれていたのである。下表の太字部分が「思考力」に当たると考える。
情報活用能力の実践力 領域 コミュニケーション能力の実践力
中学年 高学年 中学年 高学年
 友達と追究結果を比較したり,関連付けたりして,事象・事物のよさや異同を捉えるとともに,相手に応じて,分かりやすく工夫して表現することができる。 ○ 複数の情報を多面的に考察しながら考えを創り出すとともに,それらを受け手の状況に応じて表現することができる。
 






 
○ 話し合いの趣旨に沿い,根拠を示して自分の考えを分かりやすく説明することができる。


 
 受け手の状況や気持ちを考えながら,目的に沿って順序立てて,自分の考えを説明することができる。

 
○ 実験や観察,フィールドワーク等によって得た情報を比べたり結び付けたりしながら,身近な自然を捉えるとともに,他者に分かりやすく工夫して表現する。 ○ 直接的・間接的な方法によって得た情報を総合的に考察するとともに,人や社会に向けて適切に働きかけたり提言したりする。
 






 
○ 目的や疑問点を明確にして他者に尋ねたり,順序を考え根拠を示しながら他者に説明したりする。

 
○ 相手の目的や意図を考えながら尋ねたり意見と根拠を区別して他者に説明したりする。


 
○ 相手の反応と自分の思いを照らし合わせて計画を修正し,自然なかかわりの交流を進めることができる。 ○ お世話になった人に対する感謝の心を発表会や文集等で発信することができる。
 




 
○ 相手の個性や特性に応じて,通じることば・表情・動作など全身で自分の思いを伝えようと工夫することができる。 ○ 自分の感謝の気持ちが一つ一つの言葉や態度に表れた企画・運営・交流ができる。
 
 
3 総合的学習における「思考力」と各教科で育成する「思考力」との関係
 
 総合的学習で「思考力」に当たると特定した部分は,各教科の「思考力」とどのように関係しているのであろうか。
 先に出たマトリックスとV章で示した各教科で育成したい「思考力」を比較すると,以下の
ように共通性のある部分があることが分かる。
  【総合的学習の「思考力」に当たる部分と共通性のある各教科の「思考力」の部分】  
<国語>
 ○ 読む・書く領域の言葉と言葉,言葉とそれが指し示すものに関する思考
 ○ 読む・書く領域における言葉とそれを使用する者に関する思考
 ○ 話す・聞く領域における言葉とそれを使用する者に関する思考
<社会科>
 ○ 情報を身近なものや自分にあてはめたり,対比したりして具体的に分析する思考
<算数>
 ○ 数値を図表に整理し,規則性を見出す思考
<理科>
 ○ 情報を比較したり,関係付けたり,条件制御したり,多面的に分析したりする思考
<家庭科>
 ○ 情報を多面的に分析する思考
 ○ 対象に対する自己の行為の在り方を決定する思考
<音楽・図工・体育>
 ○ 自分の表したいイメージ(考え)をそれぞれの教科で学んだ要素を活用したり,自分の作品(身  体)と照らし合わせたりしながら,よりよい表現につなげる思考。
 
 上記のような両者に共通性のある「思考力」をユニットで発揮させることにより,総合的学習を通して各教科の「思考力」を一層育成することができるのではないだろうか。
 私たちは前述の必要性に鑑み,こうした総合的学習と各教科の「思考力」の接点に焦点をあて,研究に取り組むことにした。
 
4 各教科の「思考力」を転移・活用する場面を適切にユニットに位置付ける
 
 各教科の「思考力」を総合的学習の中で育成するためには,その「思考力」を転移・活用する場面を意図的にユニットへ位置付けなければならない。
 私たちはユニット計画を立てる際,以下の手順をくぐることで,こうした場面を適切にユニットへ位置付けようとしている。
 
(1)総合的学習と共通性のある各教科の「思考力」の部分を明確にする
 私たちは,昨年度までに総合的学習を通して育成したい情報活用能力とコミニュケーション能力,対象理解を各学年,各領域ごとに分析し,マトリックスに整理してきた。そして,先述の通り,その中で「思考力」に当たる部分を特定した。
 私たちは特定したその学年,領域の「思考力」に当たる部分と(3)で示した各教科の「思考力」との整合性を見極め,ユニットで活用できる両者に共通性のある「思考力」を明確にし
 
(2)取り扱う各教科の「思考力」を決め,適切な場面に転移・活用を図る活動を位置付ける
 各教科の「思考力」を総合的学習で発揮させるためには,既習経験として子どもがもっているそれらを把握し,ユニットに適切に位置付けなければならない。
 そこで,私たちはまず,U章4で述べた年間評価計画の評価規準を基に,既習経験として子どもがもつ「思考力」を捉えている。そして,その上でユニット計画に書かれた「主な活動過程と子どもの意識」と照らし合わせ,活動過程を書き換えたり,転移・活用する「思考力」を取捨選択したりしている。
 また,これまでの本校の実践や情報活用能力とコミュニケーション能力のマトリックスを基に分析すると,上表のように各教科の「思考力」が総合的学習で発揮される場面が限定されていることが分かる。例えば,上表の場合,情報の創造場面では「複数の情報を多面的に考察すること」が,情報の発信場面では「創造したことを受け手の状況に応じて表現すること」が「思考力」にあたるものとして特定されている。この前者に関係する教科の「思考力」は情報の創造場面で,後者に関係するものは情報の発信場面でそれぞれ転移・活用するようにする,ということである。
 こうした「思考力」の特性にも配慮しながら,転移・活用を図る活動を適切な場面に位置付けている。
 そして,各教科で作成した表現物の提示や助言によって「思考力」を発揮した場面や一般化した思考様式を想起させたり,V章で示した各教科の学習指導レベルの支援を行ったりして,子どもが各教科の「思考力」をより確かなものとして身に付けることができるようにしている。
5 活動の実際
 
5年生 文化領域「探訪!さぬきうどん」
(1)ユニット計画(総時数 45時間)



(2)支援と評価
 国語科の学習で思考様式が一般化された場面と同様な活動(調査結果をポスターにまとめる)を組織したり,その際に作った表現物と対比しながら,その構成や表現の適切さについて話し合わせたりする。     (第3次 5/10〜8/10)
 
 国語科の学習と同様な活動を展開する中で,ほとんどのグループが「見出し」「目的」「方法」「感想」の項を設けて,調査結果をまとめていた。
 しかし,「見出し」については項はあるものの,伝えたいことが一目で分かる表現となっていないグループが2/3近くを占めた。
 そこで,まず,国語科で培った力を生かすことを子どもたちに意識付けるため,調査結果をポスターにまとめた既習経験を想起するよう助言した。そして,その上で国語科の学習の際につくったポスターと本ユニットで作成中のあるグループのポスターを提示し,構成や表現の適切さを対比しながら話し合わせた。
 すると,子どもたちは国語科の学習で作ったポスターを手がかりに,項のおき方の適切さやその表現の分かりやすさといった思考様式を想起し,作成中のポスターの問題点を洗い出していった。
「伝えたいことをまとめたり,絞り込んだりしなくてはならないんだった。」
 見出しの表現の仕方についても振り返った子どもたちは,自分たちの作成中のポスタ−を見つめ直していった。

 
 社会科の学習で思考様式が一般化された場面と同様な活動(産地が形成された理由を調べたり,話し合ったりする)を組織したり,その際につくった関係図を基に,これまでの自分の考え方を見つめ直させたりする。  (第4次 3/10〜6/10)
 
 社会科の学習と同様な活動を展開する中で,ほとんどのグループが,各地にうどん産地の形成された理由を,左のように原料や水,土地の歴史と結び付けて考えることができた。しかし,さらに思考を進め,土地の気候と結び付けたグループは1/4に留まった。
 そこで,まず,社会科で培った力を生かすことを子どもたちに意識付けるため,産地形成の理由について追究した既習経験を想起するよう助言した。そして,その際につくった関係図(左図参照)を提示し,それを基に類比させながらうどん産地の形成に対する考え方を見つめ直させていった。  
「水沢うどんの小麦は群馬県内で作られる。群馬も香川と同じく乾燥しているから,うどんにいい小麦がとれるのだろう。」
 特産物とその土地の気候の関係の深さを想起した子どもたちは,この視点から自分たちの調べや考え方を見つめ直していった。