「思考力」を育成する単元編成

(1)明確な目的意識,相手意識の設定
 「〜を伝えるためには,この構成でいいだろうか。」「〜さんに分かってもらうためには,このことばは難しすぎるのではないだろうか。」といったように,目的意識,相手意識をもつことによって,ことばや使用者について吟味する基準をはっきりさせることができる。
 『ビーバーの大工事』(東京書籍2年下)を読んでいくうちに,「みきのまわりが五十センチ」を幹の直径と勘違いしてしまった子どもたちは,他の表現にも着目し,「来年の2年生がよく分かる説明文に書きかえよう」と『新ビーバーの大工事』づくりに取り組んだ。その中で,ことばと挿絵の関係や段落構成の順序についても見直さなければならないという考えが生まれ,学んだ思考様式を使って『ビーバーの大工事』をリライトしていったのである。
 このように思考を働かせる必要感が生まれ,そこで働いた「思考力」が生きた力として身に付いていくためには,目的意識,相手意識の設定が大切なのである。
 

(2)生まれ,使う場の設定
 ある「思考力」を身に付けるためには,その思考様式を実際に用いる場が必要である。
 そこで,思考様式が生まれ,その思考様式を他教材や他の言語場面へと転移していくことができる「生まれ→使う」場を設定した単元を編成する。
 教材文『いろいろな ふね』(東京書籍1年下)を学習した1年生は,それぞれの船が「役目・目的」「構造・設備」「構造・設備の機能」という順序で説明されていることを基に,自分の調べた乗り物について説明文を書く活動を行った。しかし,十分にその順序性を生かし切れていない子どもや,「構造・設備の機能」が,その前に書かれている「構造・機能」と整合していない子どもが見られた。そこで,現2年生が,昨年この教材文を学習した際,次の1年生のために作成した「のりものずかん」を順序性のよさを学ぶ多読教材として活用したのである。 2年生にとっても,1年前に自分が書いた「のりものずかん」について,1年生から疑問を出してもらうことによって,『ビーバーの大工事』で学んだ思考様式(分かりやすいことばで書く)を生かし,自分の表現をリライトしていく場となった。
 「生まれ→使う」場の設定は,1時間の授業レベルにおける支援としても重要なことであるが,単元を編成する上でも,配慮しておく必要がある。

 
(3)領域間の関連指導
 例えば,「主語と述語をはっきりさせる」は,文章を読むときにも,書くときにも働く思考様式である。言い換えると,この場合,「読むこと」と「書くこと」とは同一の思考によって支えられていると言ってよい。
 バンダイクとキンチュ(1983)も,「言語使用者は,文章の産出と理解の双方において,同一,あるいは類似のレベル・単位・カテゴリー・ルール・方略を用いていないとは考えられない。」と述べている。そこで,「読むこと」「書くこと」「話すこと」それぞれの領域で得た思考様式を他の領域の言語活動へ転移するような領域間の関連指導を考えたい。
 これまでの実践では,「読むこと」「書くこと」で得た思考様式を他の領域の言語活動へ転移する指導が多かった。しかし,今後は,「話すこと・聞くこと」において,「書くこと」へ転移可能な思考様式も探っていきたい。「話すこと・聞くこと」は,「書くこと」に先行するという言語の習得過程上の特性をもっているからである。


(4)発展的な学習
 発展的な学習を以下の2方向から考えていきたい。
  a「基礎・基本」の上に「豊かな学力」を育成する発展的な学習
 例えば,第4学年「紹介しよう,助け合う生き物たち−『ヤドカリとイソギンチャク』−」の単元では,「問い」と「答え」や主張と根拠といった文章構成から,段落相互の関係を考える力を育成することが主なねらいである。これは,学習指導要領中学年でねらうところの力とも一致している。しかし,学習を通してそのような「思考力」を身に付けた子どもたちの中には,本教材文中に,筆者の主張に対する直接の根拠とならない段落があるのではないかという問題意識をもつ者も出てくる。このような子どもたちに対して,その内容を挿入することの是非を主張と根拠の関係や筆者の意図などから検討する学習を位置付ける。このことにより,高学年でねらう主張と根拠の整合性を考えたり,筆者の主張や意図を読んだり,また読み手の立場から構成や表現を工夫したりするといった「思考力」を育成することができる。
 このように,その学年で付けたい「基礎・基本」が十分身に付いていると判断される子どもに対しては,さらに上の学年でめざす「豊かな力」を身に付けることができる学習を展開していくことも可能である。

 
  b「基礎・基本」をより確かなものとするための発展的な学習
 第2学年「正しく伝わるように−『ビーバーの大工事』−」の単元では,「読むこと」の領域において,「まとまりごとの順序性を吟味する」「数量や比喩,挿絵の使用等による表現を基に,ことばとそれが指し示す意味を吟味する」といった「思考力」を育成することをねらいとして行われる場合が多い。ここで,「来年の2年生がよく分かる説明文に書きかえよう」という相手意識・目的意識の基,教材文をリライトする学習展開を位置付ける。このような学習を位置付けることにより,前述した「読むこと」の領域で培った「思考力」の「基礎・基本」が,「書くこと」の領域でも生かされ,より確かな力として身に付いていく。
 このように,学んだ思考様式を他の教材や領域で繰り返し活用したり,相手や目的,状況に応じて変化させながら活用したりすることによってより確かなものにしていくのである。
 

(5)少人数指導の実施
 「思考力」の育成にあたっても,少人数指導の果たす役割は大きい。
 単元編成の際にも,思考をゆさぶったり,新たな思考に出合わせたりしたい場面では「相互作用重視型」,「思考力」の習熟に応じた学習を展開させたい場面では「習熟度重視型」の少人数指導など,「思考力」育成のねらいに応じた集団編成を位置付ける。