2  「思考力」を育成する単元編成
@ 明確な目的意識,相手意識の設定
 目的意識,相手意識が不明では,論理的思考力は育ちにくい。
 何のためにこの文章を書いているのだろう。
 誰に対してこの文章を書いているのだろう。
 このような状態では,ことばに対して先のa,b,cのように吟味するといっても,どの程度まで吟味すればよいのか基準が立たない。
「〜を伝えるためには,この構成でいいだろうか。」
「〜さんに分かってもらうためには,このことばは難しすぎるのではないだろうか。」
など,目的意識,相手意識をもった当事者でなければ,このような思考は必要とされないし,指導したとしても必要感のない状態では身に付かない。
 そこで,単元編成にあたっては,単元を貫く目的意識,相手意識を設定する。
 
A 生まれ,使う場の設定
 最近の学習方略に関するメタ認知研究では,方略についての知識を獲得することが,その学習方略を用いて問題解決をしていくためには重要であることが報告されている。例えば,作文の書き方に関する方略知識をよく知っている大学生とあまり知らない大学生に作文を書かせたところ,前者は手際よく,分かりやすい文章を書くことができたという実験がある。
 しかし,ある方略知識を知るだけでは,必ずしもそのような方略を用いることができるようになるとは限らない。自転車の乗り方についての知識を幼児に与えても,すぐに乗れるようにはならないのと同じである。
ある「思考力」を身に付けるためには,そのような思考様式を実際に用いる場が必要である。
そこで,思考に関する方略知識=思考様式が生まれ,その思考様式を他教材や他の言語場面へと転移していくことができる「生まれ→使う」場を設定した単元を編成する。
このことは,1時間の授業レベルにおける支援としても重要なことであるが,単元を編成する上でも,配慮しておく必要がある。
 
B 領域間の関連指導

 例えば,「主語と述語をはっきりさせる」は,文章を読むときにも,書くときにも働く思考様式である。言い換えると,この場合,「読むこと」と「書くこと」とは同一の思考によって支えられていると言ってよい。
 バンダイクとキンチュ(1983)も,「言語使用者は,文章の産出と理解の双方において,同一,あるいは類似のレベル・単位・カテゴリー・ルール・方略を用いていないとは考えられない。」と述べている。そこで,以下のような領域間の関連指導を考えたい。
ア 「読むこと」で得た思考様式を他の領域の言語活動へ転移する
イ 「書くこと」で得た思考様式を他の領域の言語活動へ転移する
ウ 「話すこと」で得た思考様式を他の領域の言語活動へ転移する
 これまでの実践では,ア,イが多かった。しかし,「話すこと・聞くこと」は,「書くこと」に先行するという言語の習得過程上の特性をもっている。そこで,今後は,「話すこと・聞くこと」において,「書くこと」へ転移可能な思考様式も探っていきたい。

C 「ロジカル・トレーニング」の導入

 「ロジカル・トレーニング」とは,ゲーム的な要素を取り入れた思考訓練のことである。
現在のところ,高学年において授業の導入時や朝学習の時間に位置付けている。
 これには,2つのねらいがある。
一つは,本時あるいは本単元で培いたい論理的思考の準備としてのねらいである。これは,「学習した内容の確認」が多かったこれまでの学習を改善していくことでもある。例えば「音読」に代えて,「順序性を取り入れたクイズ」を行う。
 もう一つは,論理的思考をクローズアップして段階的に鍛える場を保障するというねらいである。例えば,論理的思考力は「ディベート」の場だけでは鍛えられない。日々,ものごとを論理的に見ていくことなくして,論理的思考力は鍛えられないのである。
 ところで,実際の「ロジカル・トレーニング」は,次のような問題に取り組んでいる。
 下に示したものは,紹介文を書く単元で,取材したことの中からどのような事柄を選材すれば,相手に分かりやすく伝えられるかという学習を行っている際に実施したものである。
 イとニが正解である。しかし,ここでは正しい答えだけでなく,なぜロとハがふさわしくないのかということについて話し合ったり,分かりにくい点や感想などを交流したりする。

D 少人数指導の実施
 「思考力」の育成にあたっても,少人数指導の果たす役割は大きい。
単元編成の際にも,自らの思考がゆさぶられたり,新たな思考に出合ったりさせたい場面では,「相互作用重視型」,「思考力」の習熟に応じた学習を展開させたい場面では,「習熟度重視型」の少人数指導など,「思考力」育成のねらいに応じた集団編成を位置付ける。