1  育成したい思考力
 教育課程審議会答申(1998)でも述べられているように,現代社会においてはとりわけ「自分の考えをもち,論理的に意見を述べる能力の育成」が求められている。そこで,本年度は「a論理的思考力」に絞って研究を進めていくことにした。
 ところで,国語科における「思考力」は,使う(あるいは使われている)ことばを対象として学習することで育成される。ことばを吟味することなくしては,「思考力」は育たない。
 それでは,「論理的思考」とは,ことばをどのように吟味することなのか。
a 思考力:言語とそれが指し示す意味,言語と言語の関係,言語とその使用者等について,既成の秩序の中で論理的に吟味する力(論理的思考力)
 想像力:言語とそれが指し示す意味,言語と言語の関係,言語とその使用者等について,既成の秩序を超えて吟味する力
 言語感覚:ことばの使用の正誤,適否,美醜,好悪等について,感覚的に捉える力
論理的思考力
○ ことばとそれが指し示す意味における整合性を吟味する
 大づなを作るときは,おおぜいの力がひつようです。ふりしきる雪の中で,大人も子どもも,かけ声に合わせて力をふりしぼります。できあがった大づなの直径は約80センチ,長さは,上町の「おづな」が64メートル,下町の「めづな」が50メートルもあります。(東京書籍3年下 「つな引きのお祭り」)
 例えば,上の「おおぜい」ということばに対して,「おおぜい」とは何人ぐらいなのか。つなの直径と長さは数値でくわしく書いているのに,なぜ人数は「おおぜい」ということばなのか。具体的な人数を書いた方がよく分かるのではないか。写真には20〜30人ぐらいしか写っていないのに,これで「おおぜい」と言ってよいのか・・・。
 このように,ことばを読んだり聞いたりする際に,自分の経験と照らし合わせながら,ことばとそれが指し示す意味における整合性について吟味する思考である。
○ ことばとことばの関係における整合性を吟味する 
 私たちはことばを読んだり聞いたりすることによって,「どんな語,文,構造で表現されているか」も知ることができる。文のねじれ,主張と根拠の整合性,順序性などについて考えるのは,ことばとことばの関係における整合性について吟味する思考である。
 帰納論理,演繹論理といった形式論理は,このレベルの思考に含まれる。
○ ことばとそれを使用する者との関係における整合性を吟味す
 東京書籍5年下「森林のおくりもの」には,木が長生きであることを説明している文章がある。この文章の意味を吟味しているときはaのレベルであり,その文章を主張と例の関係で吟味しているときはbのレベルである。そして,「筆者は,読み手がよく知っている物を挙げ,読み手の納得を得ようとしている」と,そのような例を用いた筆者の意図について吟味しているときが,このcのレベルでの「論理的思考」である。
 なお,ここでは「聞くこと」「読むこと」における「論理的思考」を述べてきたが,「話すこと」「書くこと」の場合は,この思考を働かせながら表現していくことになる。