R Mon/NGC2261 の偏光特性
形成後間もない恒星(young stellar objects)は、可視域や近赤外域で大きな直線 偏光を示すものが多い。R Mon はこのような天体の一つであり、可視域で10〜15%程度 の大きな直線偏光を示す。またこの天体の偏光は時間変動性を示す。我々は、堂平の 多色偏光測光装置を用いて、偏光の変動は、フラックスの時間変動と強い相関がある ことを示し、星周辺の塵の雲の非一様性によると解釈した(Matsumura et al 1999)。
彗星状の反射星雲 NGC2261 は、 R Mon を取り囲んでおり、やはり10から数十%の 強い直線偏光を示す。R Mon および NGC2261の偏光は、塵粒子による光散乱によると 通常解釈されているが、磁場による整列した塵粒子による減光の効果の寄与も、 完全に否定されているわけではなく、偏光の起源については議論の余地がある。
我々は、OOPS を用いて R Mon/NGC2261 を偏光撮像し、この天体の強い偏光が どのような機構で生じているかを研究している。ここでは、OOPSによる偏光撮像の データ解析について紹介し、この天体についても若干コメントをする。
OOPSによって得られたデータは、IRAF(ver.2.10.4) を用いて解析した。 基本的には、次のように考え、プログラムを作った。
(1) cl-script, imfort, pgplot(作図)を用いる。(理由)これらについては、
初心者でもわかりやすい解説があるから(天文情報処理研究会1997)。
また、fortran で処理できるのは、私にとってはありがたいため。
(2) 常光と異常光の領域を2つのファイルに分けずに処理する。
(理由)分離するとファイル数が2倍になり、分離後の作業量も(どのような作業を
するかにもよるが)倍になるので避けた。但し、分離すると、分離後は通常の
撮像データと基本的に同じになり、撮像データの解析のためのソフトやノウハウが
そのまま使える利点はあるだろう。
次に、実際の作業と用いたプログラムを記す:
(0) FITS format → IRAF format: (usual IRAF tasks. IRAF ver.2.11 では不要
であろう)
(1) Bias 評価: usual IRAF tasks
(2) Bias 引き・トリミング: subbias.cl (自作)
(3) Flat fields作成: mkflat.cl (自作)
( (3') Polaroid 付き flat field: mkpflat.cl (自作、偏光効率測定用) )
(4) Flat 補正: divff.cl (自作)
(5) Sky評価・Sky引き: subsky.cl (定数引き、自作)
(5') または、 polss.cl (多項式fitting, 浜部氏作 skysuc (in Spiral)使用)
(6) 無偏光標準星の偏光測定から、機械偏光を求める: mkinstru.cl (自作)
(7) 偏光測定: polstar.cl (自作)
(8) 偏光マップの作成:polplot.cl
(9) 測光: photo.cl (自作、未完成)
中心となるプログラムは、偏光の諸量を求める polstar.cl (及び polstar1.f, etc.) である。 また、これらの cl-script および imfort のソースは、 こちら にあるので、もしお役にたつ ならばお使いください。(但し、1999年1月5日の段階では、説明としては、 Memo.txt と ReadMe.txt しかない。また、当然(?)のことながら、十分にはバグが とれていないと思われるのでご注意ください)
尚、用いた IRAF は version 2.10.4であり、SunOS 4.1.4 で動いているものであるが、 IRAF の 2.11 でもあまり大きな変更なしに動くのではないかと思われる。 IRAF ver.2.11 はインストールしておらず、まだ試していない。 また、Linux 上の IRAF でも動くと期待するところであるが、Linux ver. 1.2.13 の IRAF 2.10.4 ではだめであった(コンパイルのとき、ライブラリ(libimfort.a) を呼ぶところでうまくいかない)。 Mailing list の JIRAFNET で聞いたところ、 濱部さんから Linux, IRAF ともに version-up するといいかもしれないとのアドバイス をもらったが、まだ試していない。
CCDによる撮像では、通常、フラットフィールドの画像を用いて光学系の 感度ムラを補正するが、偏光の測定を行う場合、フラット補正を行うことで、 逆にフラットフィールド固有の偏光成分が混入する可能性がある。 そこで、ドームフラット(1997年11月27日)の偏光を評価してみると、次の図1の ようなマップを書くことができた。
図1は、ドームフラットの偏光には、2成分あることを示している。 第1の成分は、全面に渡り一定であるものであり(「Const成分」と呼ぶ)、 第2の成分は、中心から離れるほど偏光度は大きくなりかつ位置角は中心方向 を向いているものである(「Radial成分」)。 実際、Vバンドのデータ(図1a)から、Const成分を引いてみると、確かに 中心対称的なパターンが残ることがわかる(図2)。
図4aに無偏光標準星HD212311の観測例を示す。データは1997年11月27日に取得した ものである。§3.1.で説明したドームフラット固有の偏光の効果を見るために、 ドームフラットで割った場合の結果(点線)と、割らない場合の結果(実線)を 示した。割らなかった場合は、p〜0.1%程度の偏光度を示すように見えるが、 エラーも同程度あるため、実際には偏光なしと解釈できる。一方、割った場合は、 位置角θが約100度・偏光度は約0.3%の直線偏光が見える。 つまり、ドームフラットを使ったほうが、一見、データは悪くなるのである。 この偏光度の波長依存性はほとんど無い。
一方、ドームフラット固有の偏光のConst成分が、θ〜0度、p〜0.3度であり(図4b)、 「割った」場合に出てくる偏光と直交しておりかつ偏光度は同程度である。 そこで、ドームフラットで割った場合に出てくる偏光は、ドームフラット固有の偏光が 直接的に見えていると解釈できる。尚、ここで観測した無偏光標準星は、 ほぼ画像の中心に位置しているため、「Radial成分」の影響はほとんど受けていない。
次に、ドームフラットの「Radial成分」の影響が天体の偏光データに出るかどうかを
検討する。
画像上の位置による違いを見るために、偏光標準星HD183143 を、
9個所でデータを取った(図5a)。この観測の時、オートガイダーを用いずに観測した。
そのため、星の位置の移動が大きく、1セットの
データ(4画像)を取る間に、光学系の感度が異なるところまで移動したと思われる
(周辺減光の効果が大きいため)。
そのため、全く補正をしないと、フラックスについての非均一性が偏光データにも
影響する。そこで、フラックスに関するフラット補正(4つのフラットの平均の画像
によるフラット補正)は行った。
9個所の位置で、いずれも6%程度の偏光が求められており、Hsu and Breger (1982)
の値(6.08+-0.05%)とよくあっているようである。尚、HD183143には、時間変動性
がある(Hsu and Breger,1982)ので、「絶対的」な較正には不適であろうが、
ここでは非常に短時間での比較しているので、あまり問題がないであろう。
図4bは、画像の中心付近の偏光データを、各点のデータからベクトル的に差し引いた
ものである。図4cは、星を観測した位置のドームフラットの「Radial成分」を示す。
左下のデータを除くと、図4bと図4cは、よく似ている。このことは、天体のナマの
データには、Radial成分を含んでいることを示唆する。つまり、Radial成分を補正
するために、ドームフラットを利用することが必要であると考えられる。
ここでは、CCDの線形性からのずれが、どのように偏光度に影響するかを調べた。 OOPSのCCDカメラのγの値は、0.9876(+-0.0023) とされる(OOPSのwebpage)が、 東北大の秋田谷氏によると、カウントの値が2万くらいになると線形からのずれがかなり 大きくなるという(この研究会の池田氏・秋田谷氏の原稿を参照)。実際に、秋田谷氏 からもらったデータからγの値を出してプロットしてみると、図6の黒丸のように なり、確かにカウントが2万台になると、急激に落ちていることがわかる。但し、 このカウントは、bias の値を引いた後のものであり、ここでいう2万の値は、 観測のときの25000くらいの値に相当する。
P_real = ( i2 - i1 ) / ( i2 + i1 )
で表わされる。一方、観測される偏光度 P_obs は
P_obs = ( i2^γ - i1^γ ) / ( i2^γ + i1^γ )
と表わされる。P_real は (i1/i2) の関数であり、P_obs は (i1/i2) と γの関数 である。そこでγの値は適当に与え、(i1/i2)を内部的な変数として変化させて P_real と P_obs の関係を描いたものが図7である。P_obs/P_real の値は、1よりも 小さい。特に (i1/i2) の値が1に近い(偏光の大きさが小さい)と仮定して、 上の2式を1次で近似してみると、
P_obs 〜 γ・P_real
なる関係が得られる。つまり、偏光が比較的に小さいときは、CCDの線形性からの ずれが、直接、偏光度に影響することがわかる。
望遠鏡のカセグレン穴に polaroid sheet を取り付け、ドームフラットの光を 「完全偏光」に近くして測定し、偏光効率を推定することが可能である。 図8は、そのようにして得た偏光度を示す。このようにして得られた偏光は、 位置により多少異なる。ここでは東西方向への依存性を示した。 位置のみならず、フィルターによっても値が異なるが、どの場合でも95〜99%程度の 高い偏光度を示すことがわかる。もっとも、これらの値は、エラーを考えても 有為に100%とは異なる。この原因の可能性としては、(1) 光が完全偏光ではない、 (2)望遠鏡+OOPSの光学系による depolarization の効果 (3)§3.4 で述べたCCDの 感度の線形性からのずれの効果 などが考えられる。
R Mon/NGC2261 の観測例を図10に示す。星のイメージに見える部分(R Mon)の 周囲は、偏光のベクトルはある一定方向に整列している様子がわかる。
(1)フラットフィールドには固有の偏光があり、2つの成分からなると解釈される。
一つの成分は画像全面に渡って一定なもの(「Const成分」)であり、もう一つは
画像の中心に対して対称的なもの(「Radial成分」)である。
(2)無偏光の標準星の観測データを見ると、Const成分は、ドームフラットの光源に
源があり、Radial成分は、{望遠鏡+OOPS}の光学系のどこか(但し、偏光素子の
前)に源があると推定される。
(3)Radial成分を、天体データから補正するためには、波長板の各位置でのドーム
フラットをそれぞれの天体データに用いる必要がある。平均化した1枚のドーム
フラットを用いるだけでは、Radial成分は補正できない。しかし、これにより
Const成分が混入することになるが、これは無偏光標準星のデータを用いることに
より補正が可能である。
(4)CCD のγ特性が、depolarization factor に直接する。また、どのくらいまでの
カウントで観測するかについては、慎重に考慮する必要がある。尚、OOPSのCCDの
γ特性について、もう少し調べたい。
(5)オートガイダーは、精度の高いデータを取るために非常に有用である。
もしも、1セットのデータ(4枚)の画像をとる間に、星が画像上を移動したとすると、
4枚のデータ内で星のデータに対応する機械偏光が変わり、フラックスの
感度も変わってしまうことになり、恐らくきちんとしたデータを出すことが
ほとんど不可能になるであろう(もちろん、要求される精度に依る話ではある)。
比較的明るい標準星の場合(例えば1秒露出)でも、CCDの読み出しや、波長板の
回転の時間を入れると、1セットのデータ撮るのに5分以上はかかるので、
オートガイダーは必須である。
(6)以上のような留意点はあるものの、「標準的」な解析法で「一応」の結果
(偏光度にして 約0.1%以内)は出るようである。但し、現段階では、
OOPSの本当の限界(0.1%以内をどこまでゼロに近づけることができるか)の 見極めはできていない。
これを検討するためには、例えば無偏光標準星の多数の観測(光子ノイズに勝つため)
が必要であろう。
これは、光量が多すぎると CCDが線形性からずれるため、100ピクセル分を
足しあわせるとしても、1回の露出では 10^6 カウント(0.1% の精度に相当)を得るの
が精一杯であるからである。このため、0.01%の精度を議論するためには、数十回から
100回のオーダーのデータを取る必要があり、少なくとも半夜以上を使う必要がある。
(7)R Mon のデータを解析してみると、「同心円的パターン」と「整列したベクトル」
の2つのパターンが見られる。「整列したベクトル」のパターンは、単にシーイングの
悪さでは説明できない。
Close, L.M. et al 1997, ApJ 489, 210
Hsu, J.H. and Breger, M. 1982, ApJ 262, 732
Matsumura, M., Seki, M. Kawabata, K. 1999, AJ 117, 429 Click Here.
Schmidt, G., Elston, R., and Lupie, O. 1992, AJ 014, 1563
Whitney, B.A., Kenyon, S.J., and Gomez, M., 1997, ApJ 485, 703
天文情報処理研究会編『IRAFを基本システムとしたデータ解析ソフトウエア開発の 手引』1997、 国立天文台天文学データ解析計算センター