偏光標準星9 Gemの時間変動性:

To Be a Standard, or Not to Be?

松村雅文(香川大教育)、関 宗蔵(東北大理)、川端弘治(東北大理、国立天文台)

概要:標準偏光星の一つである9 Gemの直線偏光度と偏光位置角を、1991年から1996年において調べた。Hipparcos衛星の観測により、この星は 13.70日の周期の変光星であることが明らかにされたが、偏光の特性も、この周期により変動している可能性が強いことを示した。このことは、9 Gemの偏光は、部分的には、星自身または星周起源であることを暗示する。偏光に対する周期性が確立され、この周期性が較正されるならば、この星は、偏光位置角に関して1度の精度での標準星として使うことができるであろう。

1.はじめに

直線偏光の偏光位置角を較正するために、偏光の位置角が知られている強偏光の標準星を観測する必要がある。こうした標準星としては、偏光が強いことと時間変動性がないことが必要である。星間偏光は時間変動がほとんどないことが期待されるため、 Serkowski(1974)は、星間偏光が強い(と考えられる)星を選んだ。星間偏光の強度と距離には、正の相関があるため、星間偏光が強い星を選ぶと、距離が遠い星が選ばれる傾向がある。更に、標準星としては、ある程度の見かけの明るさで観測される必要があるため、結果的に遠距離にある絶対等級の明るい超巨星が多く選択されている。ところが、超巨星には星周物質による時間変動を伴った偏光が観測されている例がある(例えば Hayse 1984, Hayse 1986)。実際、「偏光標準星」にあげられた星でも、時間変動性が認められている(Bastien et al 1988, but see also Clarke and Naghizadeh-Khouei 1994)。偏光の位置角を較正するために、どうのように偏光標準星を選べば良いかという問題は、必ずしも明白な答えを得ていない。

超巨星9 Gem (=HD43384, B3Ia)は、Serkowski(1974)により選ばれた偏光標準星であり、直線偏光の偏光位置角を較正するために用いられてきた。しかし、この星の偏光には、時間変動性があり、標準星としては適していないことが示された(Hsu and Breger 1982, Dolan and Tapia 1986)。この星を標準星として用いないならば、別の星を使わなければならないが、赤経が6時前後には、Serkowski(1974)のリストには、代わりの偏光標準星はない。このため、我々は、堂平観測所において、9 Gemに時間変動性があることを知りつつも、この星を一つの偏光標準星として観測している。ここでは、9 Gemの偏光の変動性を定量的に示し、偏光標準星として使えうることを議論する。

2.観測および結果

我々は、堂平観測所の多色偏光測光装置(Multi-Channel Photopolarimeter, MCP)を用いてyoung stellar objectsの一つであるR Mon1991年から観測しており(Matsumura, Seki and Kawabata 1997)、偏光標準星として9 Gemもほとんど必ず同じ晩に観測している。ここでは、1991年から1996年の9 Gemのデータと、同時期に得た別の2つの偏光標準星(HD7927HD21291)のデータを検討する。

1に、9 GemHD7927HD212913つの星の直線偏光度の波長依存性を示す。図の曲線は、星間偏光に関するSerkowskiの経験則を仮定し、非線形のフィッティングを行った結果である。3つの星に関して、Serkowskiの経験則が比較的よく当てはまることが分かる。

図1

2は、9 Gemの位置角とHD7927の位置角の差、及び 9 GemHD21291の位置角の差を、時間の関数として示したものである。どちらの差も、時間とともに変化しているのがわかる。この変化が、HD7927またはHD21291の位置角の変動による可能性もある。しかし、図2は、これらの差が時間とともに同じように変化することを示しているので、9 Gemの位置角が変化している可能性が強い。

図2

Hipparcos衛星により、9 Gemのフラックスは周期的に変動していることが明らかにされている(周期:13.70日、Epoch: J.D.=2448509.85)。図3は、9 Gemの直線偏光度を、フラックスの変動性の位相の関数として書いたものである。偏光度は、位相が約0.6の時に最大になり、位相が約0.4の時まで、徐々に下がっている。振幅は、約0.15% である。

図3

9 GemHD21291の偏光位置角の差を、位相の関数として示したものが図4である。HD21291の位置角が一定であるなら、図4は、9 Gemの位置角が約2度変動していることを示す。位置角は、位相が約0.2の時に最大になり、その後、位相とともに小さくなり、位相が約1の時に最小になる。サイン・カーブを仮定して、非直線のフィッティングを行うと、振幅が約0.5度である事がわかる(図4の曲線)。

図4

3.結論

9 Gemを偏光標準星として扱うべきか 否か について、次のような結論を得た:

(1)偏光の位置角の精度が、3度よりも大きくても良いのならば、位置角は170度(一定)として、 9 Gemを標準星として問題はない。

(2) 偏光の位置角の精度として、1度程度が要求されるのならば、時間変動性(13.70日の周期、及び0.5度の振幅)を考慮するべきであろう。

References

Dolan, J. and Tapia, S. 1986, PASP 98, 792

Hayes, D. P. 1984, AJ 89, 1219

Hayes, D. P. 1986, ApJ 302, 403

Hsu, J. and Breger, M. 1982, ApJ 262, 738

Matsumura, M., Seki, M., and Kawabata, K. 1997, in preparation

Serkowski, K. 1974, in Planets, Stars and Nebulae Studied with Photopolarimetry, ed. T. Gehrels  (Tucson: University of Arizona) p.135


付録:

Hipparcos衛星によると、9 Gemのフラックスの変動は、周期が13.70日である。我々の観測は、1991年から1996年の6年間であり約160周期分が含まれる。もし、周期が0.1日違うと、後の方で1周期分以上ずれることになり、本文で議論した内容に深刻な影響を与える。そこで、ここでは、わざと周期を少しずらせて、偏光度が位相に依存する様子の変化を調べてみた。周期が13.68日や13.72日では、あまり変化は認められないが、周期が13.61日や13.76日では、はっきりとした依存性は見られなくなってしまう。この事は、9 Gemの周期は、Hipparcosで得られた値(13.70日)が妥当である事を暗示する。

!! 付録の図は、ここでは、準備できていません。... Sorry...