2002年度教員養成カリキュラムの開発に関する研究No.02
香川大学教育学部
教員養成モデル・カリキュラム研究開発プロジェクト
報告書抜粋

「はじめに」と「おわりに」

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 2002年度教員養成カリキュラムの開発に関する研究(2年次)
      も く じ

 I はじめに……………………………………………………………………………………………… 1
 □ 現行カリキュラムに関する教官及び学生の意見と改善の方向………………………………… 3
  1 「学生による授業評価」から見た授業科目の在り方について …………………………………… 3
  2 教育実習後の実習生へのインタビューと実習指導教官への質問票から ……………………… 5
  3 現行カリキュラムに対する学生の声 …………………………………………………………………6
  (資料) 現行カリキュラムに寄せられた在学生の声 ………………………………………………… 7

 m 教育実践力の向上を目指した各教科における取組み………………………………………………11
  1 各教科における取組みの実際 ………………………………………………………………………11
  (1)社会科の取組み ……………………………………………………………………………………11
   @取組みの概要
   A 成果と課題
  (2)理科の取組み ………………………………………………………………………………………15
   @取組みの概要
   A 成果と課題
  (3)保健体育科の取組み ………………………………………………………………………………  19
   @取組みの概要
   A 成果と課題
  2 教育実践力の向上を促進する授業科目の在り方 ………………………………………………   22

 W 実地教育の現状と課…………………………………………………………………………………24
  1 実地教育の現状と問題点 …………………………………………………………………………  24
  (1)学校教育入門 ……………………………………………………………………………………… 24
  (2) フレンドシップ事業 ………………………………………………………………………………… 25
  (3)教育実践演習 ……………………………………………………………………………………… 26
  (4)教育実習 …………………………………………………………………………………………… 27
  (5)公立校実習(特別教育実習)………………………………………………………………………   28
  (6)公立学校インターンシップ …………………………………………………………………………  29
  2 実地教育を軸としたカリキュラム改善の方向 …………………………………………………… 30

 X モデル・カリキュラム(試案)の基本骨格 ……………………………………………………………  34
  1 モデル・カリキュラム(試案)の構成要素の検討状況 ……………………………………………… 34
  2 実地教育を軸としたモデル・カリキュラムの基本構想(案)………………………………………… 35
  3 モデル・カリキュラムの基本構想図 …………………………………………………………………37

 W 今後のカリキュラム編成に向けて(おわりに)………………………………………………………   39


     I   は じ め に


  本報告書は、平成14年度香川大学学長裁量経費による「2002年度教員養成カリキュラムの開発に関 する研究(2年次)」のまとめである。昨年度に行った研究を発展させ、教員養成カリキュラムの改革を進 めるための課題と観点をより鮮明にし、できうれば、次年度からの具体化に踏み出す指針を示すことが 本研究の目的である。そのために、今回は、机上の議論に終わらせず、本学部で積極的にカリキュラム 改革に取り組まれている方々からの事例を共同で検討し、そこから改革の方向を探り出すことに心がけ た。本研究を通して筆者なりに感じた課題を以下列挙して、序に替えたい。

 1 「実践重視」主義・「学問重視」主義ベクトルからの脱却

  この10年来、カリキュラム改革の中心は「実践的指導力」を備えた教員養成だといわれてきた。「教員 養成系大学・学部の在り方に関する懇談会報告」(平成13年11月)もそのことを強く意識したものである。
 しかし、指導力の背景には、教育実践を科学的に探求しうる確かな研究的力量が根づいていなければ ならない。即戦力としての指導力の意義は認めつつも、大学における教員養成の課題として、実践を研 究する力の形成が忘れられてはならない。このように述べると、実践の基礎としての「専門科学」、とりわ け教科の基礎としての専門諸学芸の必要性が再び指摘される。教育実践の研究的力量において、それ は要素の一つではあっても全てではない。「実践重視」主義・「学問重視」主義という二つのベクトルをめ ぐる議論をどう脱却するのかが、今、問われているのではないか。「在り方懇報告」を皮相な教育技術の 獲得を性急に形成することだと読むと、それはカリキュラム改革の方向を見誤る。また、「学問重視」の
 名の下に、専門諸科学に特化した教育内容編成論に留まるのであれば、それも改革の方向としては大 きな問題を含んでいるといわざるをえない。昨年の本研究で、教育における「臨床」を中心にしたカリキュ ラム改革の必要性を強調したのも、こうした二つの問題を克服し、教育実践を科学として探求し、研究す る力をどう形成するか、教育実践科学研究の力を備えた指導力とは何かを探ろうとしたからである。

 2 教員養成における「教科に関する専門科目」の改革

  今回の事例検討における「初等の教科に関する科目」の改革案は、共通して教科のあり方を学生に反 省させ、既成の教科へのイメージを転換させようとするものであった。そこに体験的手法を導入し、学生
 の視点から教科の存在を意識化する契機をつくり出そうとしていた。こうした試みを個別の教科に留め
 ずに、一般化しうるものかどうか、また個別の教科を越えた共通科目としての「初等教科研究」のような
 科目へ発展させる可能性等を検討することが求められる。そこでは「表現」「認識」「構想」「リテラシー」と いった教科を越えた「環」としての分野・領域も想定されよう。本学部では、かつて「初等教育研究」なる科 目を設定した経験がある。そこでは初等の教科・領域を相対化し、教科の意義を探究する意欲を学生
 に形成しようとするものであった。今回の改革案はその方向と重なる。教科の基礎として専門科学の知 識は、こうした学生の意識の上に立ってはじめて意味を持つ。今後、中等における教科研究の改革をど う進めるかなど、課題は山積している。

 3 「臨床」を視点とした改革の方向

  昨年の本研究のみならず、日本教育大学協会の「『モデル・コア・カリキュラム』研究プロジェクト」の提 起でも「臨床」を視点とした改革が重視されている。そのためには「実地教育」の改革が急務である。最
 近では「体験的カリキュラム」と題する研究も示されている(「新免許法に対応する教員養成課程体験的
 カリキュラムの体系的構築に関する実践的研究」小林辰至ほか、科研報告書・2003・2)。今回のわれわ れの研究でも、実地教育と「専門」科目との接続など、「臨床」の体系化をめぐって改革の視点を示すこと ができた。 いったい「臨床」を重視するとは何か。それは狭い意味での「体験」に限定されるものではな い。2で述 べた教科研究の新しい方向は、体験を取り入れつつ、それを教科の知の転換へと誘う意図 を持っている。こうした知の転換をどう意識化するかが「臨床」重視の意義ではないか。小林らの研究で は、教科外・生活指導における改革として「学級経営」のスキルによる実践的学習が提起されている。そ こでは、「子どもが変わり」「教育観が変わった」「体験的学習が必要」という状況とそれに対応する「教育 活動創造の力」の形成がカリキュラム改革の方向性として説かれている。今必要なのは、こうした一般
 的言説の列挙ではなく、改革の内実である。子どもや教育観の変化とその背景にある社会学的・世界
 観的視点にどう学生の意識を向けるか等をどれだけ課題化しうるか、そのためには、幾種類にも用意さ れた「体験的カリキュラム」も、そのメニューの広がりとともに、子ども論等をめぐる知の転換を学生にど う意識化させるかが問われよう。こうした改革には実地教育の改革のみならず、旧来の授業科目の改
 革が不可欠である。本研究からの示唆を改革に繋げたいものである。

  以上、筆者の責任で改革の方向を述べたが、問われるのはそれを担うシステムの改革である。2年間 の研究から導き出された視点をどう改革に具体化するかのシステムを全学部的規模で立ち上げること
 が必要である。本研究で検討した課題は改革の出発といえるものである。本格的なカリキュラム改革を 進める組織が全学部的に構築されなければ、いつも課題を指摘するだけの「研究のための研究」に留ま る力らである。

  冒頭でも述べたように、本研究は、先導的な試みを共同で学習する形で進めた。その過程での参加者 の意見からいくつもの貴重な課題や視点を発見することができた。筆者も議論を通して、教育実践科学 を中核としたカリキュラム改革の必要性を改めて確認することができた。システムの改革は単に組織を 立ち上げ、運用すればよいということではない。教師教育研究を職務研究として位置づけ、個々の自覚
 的な取り組みから学び合う共同の関係が求められよう。本報告書が、こうした関係の創造の一助になれ ば幸いである。

  最後に、本研究に積極的にご参加いただいた学部・附属の教官の方々に厚くお礼申し上げます。ま
 た、今回も本研究を精力的にコーディネートしていただいた七條教官に心より感謝いたします。


  Y 今後のカリキュラム編成に向けて(おわりに)

  昨年度から2か年にわたって、これからの時代に対応する教員養成カリキュラムの開発に関して、実
 地教育を軸として検討を進めてきた。

 昨年度の取組み
  昨年度は、主に、「教育職員免許法改正」や教員養成課程の規模の再編等を受け、本学部において、 平成10年度より研究されてきた「体系的な教員養成カリキュラムの在り方」に関する最終報告書及びそ
 れまでの研究成果をもとに作成実施されている本学部の現行の教員養成カリキュラムの成果と問題点
 について検討した。そして、これからの時代に対応する教員養成カリキュラムを作成する際に、参考
 となるモデル・カリキュラム(試案)の基本骨格とその全体構想の例を示した。

 本年度の取組み
  本年度は、モデル・カリキュラムを構想する際の構成要素としてあげた9つの視点の中で、特にB「実
 地教育を軸に教職専門と教科専門を統合的に学べる教育的実践力の向上を図る工夫、G円授業科
 目の構造化」の中でも特に「実地教育の実施内容及び実施時期の見直し・検討を行う」こと、H「授業科
 目の改善と指導方法・指導体制の工夫」を中心に、先進的な取組を行っている事例として、社会科、理
 科、保健体育科を取り上げ検討するとともに、実地教育に関してもこれまでの取組みの現状と課題につ
 いて検討を行った。
  本来であれば、当初に示したモデル・カリキュラムを構想する際の構成要素としてあげた9つの視点
 すべてについて、多面的多角的に検討した上で、モデル・カリキュラムの基本構想(案)を提示すべき
 であろう。しかし、より確かな教育実践力を培う教員養成のためのカリキュラムを構想する上で、教育
 実習を中心とした実地教育を軸に、教科専門、教科教育、教職専門が効果的に連動して機能すること
 が大変重要ではないかという考えから、先のような視点に焦点を当てて、本年度の研究を進めることと
 した。

 検討結果を踏まえた今後の課題
  検討した結果については、「Vモデル・カリキュラム(試案)の基本骨格」で示した通りである。このことを
 もとに今一度、本学部の実地教育の問題点を検証し、その全体構想を再構築する必要がある。
 また、学ぶ主体である学生にとって有効に学ばれ、教育実践力が培われるよう、実地教育、特に教育
 実習の実施と、学部における授業とが有機的に連動するよう授業科目の工夫が求められる。第m章で
 も示したように、すでにいくつかの講座や授業科目において参考となる実践が試みられている。これらを 大いに参考にして、新たな授業科目の創造や指導方法・指導体制の改善が行われる必要がある。
  第2回のフォーラムにおける学生の声の中に、「同じ授業科目群でも指導される教官や講座によって、
 その指導の方向が異なっている」というものがあった。確かに「授業研究I」とあっても、それぞれの教科
 ごとに内容が異なるのは当然であろう。しかし、そこで行われる「授業研究I」の設定趣旨(目的)が教科や 担当教官によってバラバラであったのでは、学ぶ学生にとって混乱を招くだけである。今回、教育実習を 中心に実地教育を軸とした学部における授業科目との連動を図ることに焦類を当てたカリキュラムの改 善の方向については、学部教官はもとより附属教官との連携協力の下に、実効性があがるよう共通理 解を図って実施できるようなカリキュラムづくりとシステムづくりが求められよう。そのためにも、今後、学 務委員会のもとに、ワーキンググループなど、実務レベルの作業委員会の設置が望まれる。

  その他、今回十分検討できなかったものとして、第V章でも触れたように、いくつかの課題が残されて
 いる。 一つとしては、この構想案が実際に、中学校教員養成だけでなく、小学校教員養成についてもう まく機能するかどうかという点である。例えば、教育実習後に位置付けた「授業研究U」を、小学校を主
 免とする学生が学べるように行うことができるかどうか課題が残っている。したがって、「授業研究U-A」 (小サブ用)、「授業研究U-B」(中サブ用)という対応を考える必要があるかも知れない。今後の検討課題 である。
  二つとしては、実地教育の場面観察の場として、現在小学校、中学校が想定されているが、教員とし
 ての力量形成の上から、小サブは中学校を、中サブは小学校を理解する必要があるだけでなく、やはり 幼稚園についての理解も深める必要があると考えられる。その意味から、場面観察実習の中に幼稚園 を位置付けることも視野に入れておくことが必要となろう。
  三つとしては、この構想案の中には、副免が位置付けられていない。今後、主免と副免との関係やそ れを実地教育全体の中でどう考えていくかなどについての検討が必要となろう。
  これらの課題も含めて、先にも述べたように具体的な実務レベルにおいて、これからの時代に対応す
 る教員養成カリキュラムの在り方が検討され、その編成が具体化されることを期待するものである。
  最後に、このプロジェクトの推進及び報告書のまとめにあたり、ご協力いただいた教官各位に心より
 感謝申し上げまず。