これからの時代に対応する教員養成カリキュラムの開発に関する研究

2002年3月
「香川大学教育学部教員養成モデル・カリキュラム研究開発プロジェクト」報告書

報告書は香川大学教育学部教育実践総合センターで扱っています.

 

報告書抜粋

「はじめに」と「今後の研究開発の課題(おわりに)」


目    次

T はじめに 
U 現行カリキュラムの意義と課題
V 教員養成カリキュラム検討の視点と今後の課題
W 教員養成モデル・カリキュラム(試案)開発の基本的な考え方と留意点
X モデル・カリキュラム(試案)の基本骨格 
Y モデル・カリキュラム例(全体構想図・授業関連構想図)と解説 
Z 今後の研究開発の課題(おわりに) 
[ 資料:研究経緯 


はじめに


 本報告書は、平成13年度香川大学学長裁量経費による「教員養成モデル・カリキュラム研究開発プロジェクトー以下、本プロジェクト」のまとめである。わが国の教員養成において、教員としての資質・能力の向上はいつの時代にも社会から要請された基本的課題であり、各教員養成機関は多くの理論的・実践的蓄積を有してきた。教育職員免許法に従いながら、教員養成カリキュラムをどう構想するかは、全国の教員養成系大学・学部にとって基本的な研究・実践的課題であり、この点での蓄積もこれまた多い。
 しかし、21世紀における今日の社会的状況は、教員養成系大学・学部が、学生や地域のニーズに応えるべき教育研究体制をどのように整備しているかを以前にも増して問いかけている。それは教員就職率の減少や教育学部再編・統合、さらに教員の指導力不足といった社会的な側面からの問題提起を契機にしつつ、戦後続けられてきた教員養成系大学・学部における教員養成のあり方を根源から問い返すという本来の研究課題への対応が求められていることを示している。特に教員養成の核である教育課程をどのように見直し、21世紀にふさわしい教員養成カリキュラムをどう策定するかは、地域における教師教育の責任大学・学部として緊急に追究すべき課題である。
 国立大学の再編・統合を視野に入れた「国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会(以下、在り方懇談会)」は、平成13年11月に教員養成カリキュラムの基本的在り方を検討する視点として「教育職員免許法の改正」「教員養成学部の主な課題」「学部教育で身につけさせるもの」に続いて「体系的カリキュラムの編成」「コア・カリキュラムの作成」を指摘した。「体系的カリキュラム」では、大学の各教科に関する科目が各教科教育に生きるものとして統合されるべきこと、子どもの発達に対する深い理解と教科に関する専門的知識に基づくもの、幅広い専門分野を抱えながら教員養成の体系的カリキュラムの編成の必要性を強調した。「コア・カリキュラム」では、他の専門学部との対比で教員養成大学・学部で学習者が最小限身につけるべき目標を示すこと、各大学において大学用のコア・カリキュラムを作成すること等を提言した。
これまで各大学・学部においてこうした視点からのカリキュラム改革が皆無だったわけではない。香川大学教育学部(以下本学部)がそうであるように、平成10年度前後からの教員養成課程の規模の再編(いわゆる教育学部教員養成課程の総定員1万人体制)や教育職員免許法の改正は、全国的に教員養成カリキュラム改革の必要に迫られた。全国で学校種に対応した教員養成課程から学校教育教員養成課程への転換において新しいカリキュラムが開発され、実施に移された。本学部では平成13年度はその完成年度に当たる。
 体系的な教員養成カリキュラム作成という課題に迫るためには、一つにはこうした新しいカリキュラム開発の成果を評価することが不可欠に要請される。そこで本プロジェクトにおいては、まず、本学部における新しいカリキュラムの意義と課題を整理し、教員養成のモデル的カリキュラムを作成する方向性を探ることにした。
 平成10年度からの新しいカリキュラムにおいては、大学に入学してきた学生が将来の教師を目指して専門分野・コースを自主的に選択するシステムを採用してきた。18歳時点においていきなり狭い意味での教員養成に挑むのではなく、じっくり教師・教職への構えを形成しようとしたからである。また、先に「在り方懇談会」が提起したのは教員養成系大学・学部における教員養成機能の充実と責任であった。この立場によれば、早期から教師・教職への意識を高め、指導力豊かな資質・能力を形成する課題にどのように応えるかが問われている。
 カリキュラム作成の基本には、どのような教員養成観を基軸に据えるかの検討が必要である。本プロジェクトでは、こうした原則的課題を視野に入れた研究を推進する。そのことは、「大学における教員養成」というわが国の教員養成政策の基本理念を現代において発展的に継承することに結びつくはずである。
 この他、教員養成における教科専門科目の位置づけ、教職専門科目の問い直しなど従来から問題にされてきた研究・実践の課題をこの際、根源から検討することも本プロジェクトの任務である。さらに、教員養成系大学・学部における「専門」研究の位置づけ、卒業研究の在り方なども重要な検討項目である。そして、こうした教育研究を支えるシステムの整備・改革がカリキラム開発の土台に据えられねばならない。
 これらの検討を通して、入学から卒業までの学修過程においてどのような目的・目標を設定し、個別の授業科目を配置するかを提示することが必要である。さらに、教員養成系大学・学部が地域に開かれ、地域の教育的ニーズに貢献する視点から、現職教員の研修等に資するカリキュラム開発と教育研究体制の整備も見逃されてはならない検討課題である。
 本研究は平成13年度単年度のものである。しかし、問題の性質から本研究は次年度以降も継続的に進められるべきである。その意味で平成13年度はプロジェクトの出発の年度に位置づく。本学部における現在の教員養成カリキュラムを総括しながら、次年度以降に具体的なカリキュラム開発を進めるための基本骨格とその視点を示し、それをイメージするためのカリキュラムの基本構想図を作成した。
 モデル・カリキュラムといっても、全国で画一的なそれを求めることに終わっては地域の特色を生かし、地域と共同して推進する教員養成には結びつかない。香川の地で、しかも総合大学に位置する教育学部という本学部の利点を積極的生かした特色ある個性的なカリキュラム作成が求められている。「本まとめ」は次年度以降、本格的なカリキュラムの研究開発を進めるための基本を示したものである。学部内において「本まとめ」をもとに今後の教員養成の在り方を踏まえたカリキュラムの検討が活発に展開されることを期待する。教員養成に関する検討課題の指摘に留まる研究で済んだ時代は終焉し、具体的な教員養成システムとカリキュラムを提起する責任が問われているからである。


今後の研究開発の課題(おわりに)

 本学では、Wでも述べたように、「教育職員免許法改正」や教員養成課程の規模の再編等を受けて平成10年度以後に開発作成された新しいカリキュラムを現在実施している段階であり、まだその成果や課題に関して明らかにできるまでの状況には至っていない。しかしながら、平成13年11月に「在り方懇談会」から答申が出されたことにより、教育学部の再編統合が大きな課題となっている中で、あらためて教育学部における教員養成の在り方について新たな視点を加えて検討する必要性が出てきた。本プロジェクトは、そのような状況の中から、今後の教育学部の在り方を見据えつつ、これからの教員養成をどのように行うべきかについて、カリキュラム開発を中心に検討することを目的として立ち上げられたものである。
 本年度は、教員養成モデル・カリキュラム(試案)開発のためのベースとなる基本的な考え方について検討し、作成のための基本骨格(案)を提示することを主な目標として研究に取り組んだ。その内容については、本報告書において示した通りであるが、まず、現行のカリキュラムを開発した趣旨を十分踏まえ、その意義について再確認することと、現段階における課題(改善すべき問題や積み残された問題等)を明らかにすることとした。その上で、次に、モデル・カリキュラム開発に向けて、どのような視点から検討を加えていけばよいかについて議論した。そして、最後に、それらをもとに、モデル・カリキュラム開発の基本的な考え方と留意点についてまとめ、モデル・カリキュラムの作成に向けての基本骨格(案)及びモデル例(1例)を提示した。
 先にも述べたように、現行のカリキュラムが実施されてまだ間がないことや、教育学部の再編統合の行方が定かではないこと、委嘱後短期間でまとめないといけなかったことなど様々な制約もあり、幅広い視点からの十分な検討の結果とは言い難い。しかしながら、現段階において一つのたたき台を提案し、それをもとに今後おおいに議論をしていくことこそ大切であると考えている。
 本報告書において、検討し提案したものは、あくまでも「試案」である。今後さらに検討を加え、これから求められる教員養成モデル・カリキュラムの作成に向け、より妥当性のあるものに高めていく必要がある。
そのための今後の課題としては、主に次のようなことが考えられる。

@今回提案した教員養成モデル・カリキュラム(試案)開発の基本的な考え方と留意点について幅広い視点からの検討(シンポジウムの開催など)を加え、修正を行う。
A今回示したモデル例をもとに教員養成モデル・カリキュラム(試案)についてさらに検討を加え、モデル・カリキュラム(案)を作成する。
Bモデル・カリキュラム(案)をもとに、授業科目の構成の検討や授業科目の改善、指導方法・指導体制の工夫等、その具体化を図る。
C具体化されたモデル・カリキュラム(案)に即して、いくつかの授業科目について試行し、その結果に基づいた修正を行う。
D香川大学の特色を生かした今後求められる教員養成カリキュラムをまとめる。

最後に、本報告書の作成に当たりご協力いただいた関係教官に心より感謝申し上げ たい。


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