高等学校における「総合的な学習の時間」に関する研究
−香川県の高等学校における試行状況の調査−

2002年3月
香川大学教育学部「総合的な学習の時間」研究開発プロジェクト

報告書抜粋

「はじめに」と「まとめと今後の課題」


はじめに

 学習指導要領の改訂に伴い導入がきまった「総合的な学習の時間」の本格実施が目前に追っている.小学校・中学校では、平成14年度の全面実施に向けて、これまでの試行を踏まえて、カリキュラムをどのように編成するか、正念場を迎えている.
 小学校・中学校の「総合的な学習の時間」については、多くの学校がそれぞれ試行的に実践を積み上げ、多くの研究者が実際に連携協力して研究を深めてきた状況がある.それに対して高等学校については、平成15年度から順次実施ということもあり、実践の蓄積も研究の深まりもこれからというのが実情ではなかろうか.
 さて、学習指導要領の改訂によって「総合的な学習の時間」の導入が決定した当初は、この時間に対して非常に大きな期待が寄せられていた.この時間によって、とくに小学校や中学校では教育現場の問題が何か一挙に解決するようなイメージさえあったのではなかろうか.
 しかしながら現在、その期待の声はかなりトーングウンしている週五日制とともにこの時間が導入されることによって、教科の内容と時間が従来と比べると大きく削減される.そのことが子どもたちの学力低下をもたらすのではないかという声が日に日に大きくなってきている.
 さらには、「総合的な学習の時間」の研究はもう古い、これからは基礎基本の確実な習得を目指した教科教育の研究を充実すべきだといった声さえもれ聞こえてきている.
 上述のような状況の中、これから本格的に「総合的な学習の時間」に取り組んでいくことになる高等学校の学校現場ではこの時間をどのように考え、実践していこうとしているのか.
 この時間の学校教育への導入は、児童生徒のこれからの社会での自立へ向けた学びの創造や「学びからの逃走」などと呼ばれる学びの問題状況の改善を促すだけでなく、これまでの学校教育のあり方そのものを見直す契機でもある.与えられたものだから仕方なくあるいは何となくやりすごすのではなく、「総合的な学習の時間」に学校・教師が必要性を認め主体的に取り組んでいくことが必要ではなかろうか.
 「総合的な学習の時間」を充実したものにしていくための課題や条件について追究していくことが求められる.また、香川大学ならびに香川大学教育学部が高等学校における「総合的な学習の時間」の充実した実践のためにどのような協力連携ができるのかということも考えていく必要がある.大学は高等学校と直結しているわけだが、この点から言っても、高等学校の側にとっては大学の知的資産、専門的知見をどのように活用していくか、大学の側にとっては「総合的な学習の時間」での学びを通して形成された学力をどのように評価していくかといった問題も追究していく必要がある.
 本研究報告は、今後の本格的な高等学校の「総合的な学習の時間」の研究開発のための基礎的な資料を収集することを目的として、香川県の高等学校における「総合的な学習の時間」の試行状況を調査したものである.
                                                                                  
まとめと今後の課題

   調査結果をまとめてみて、それぞれの学校における「総合的な学習の時間」への取り組みにはかなりの差異があることが判明した.これにはいくつかの理由があると考えられる.
 まず、「総合的な学習の時間」の公的な位置づけ、すなわち教科とは異なり、学習指導要領による拘束性が弱いものになっているということである.別の見方をすれば、「総合的な学習の時間」はそれぞれの学校現場が創意工夫する余地が大きい時間であり、この時間の意義や必要性をその学校がどのように考えていくかというところからすでに取り組みに差異が生じるということである.
 次に、「総合的な学習の時間」の導入によって展開される学び、すなわち総合な学習、ないし総合学習は教師も生徒もこれまでほとんど経験したことのないものであるということである.
 調査結果全体を通して、この時間に対する高校現場のとまどいを見て取ることができる.実践を展開する上での問題点や大学に期待する事項についての回答でもわかるように、それぞれの学校が手探りで実践を展開せざるを得ない状況である.これは大きな困難である.しかしこれも別の見方をすれば、それぞれの学校がこれまでの自校の教育の在り方、教育課程、教育課程経営をトータルに見直し、学校の内外での連携協力をすすめ、主体的に教育改革を進めていく契機を得たということでもある.当事者意識をもって、この時間に主体的に取り組むことが必要ではなかろうか.
 その取り組みの手がかりとなるべく、大学は、高等学校からの期待に応えられるように、現場と連携して研究を進めるとともに、条件を整備していく必要がある.
 さて、「総合的な学習の時間」の実践の構想、実践の実施とともに、この時間を通しての学びをどう評価するかということも大きな問題である.その学びの評価は、従来から慣れ親しんできた教科の学習の評価と異なるものであろう.これは、「総合的な学習の時間」を通して、また「総合的な学習の時間」が導入された教育課程全体を通して形成される学力の問題、高等学校においては進路・進学指導の問題等とも結びついている問題である.
 繰り返しになるが、「総合的な学習の時間」の意義、この時間の実践の構想と実施展開、この時間とこの時間の導入された教育課程全体によって形成される学力、これらの問題について、研究機関は、現場での実践的な追究と連携して、実践的理論的な研究を展開し、現場を支えていく努力が求められる.香川大学教育学部には期待された諸事項に具体的に応えることが求められている.
 そのためにも、今回の基礎的な調査研究を踏まえて、今後、香川大学教育学部、附属教育実践総合センターとともに、香川県の高等学校からもメンバーを迎え、本格的な研究プロジェクトを立ち上げ、高等学校における「総合的な学習の時間」の具体的な研究開発をすすめていきたい.


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