★☆★☆ ⇒《研究室の小窓》
1.教育実践総合センターの教員として 第1回 地域における相談活動
                            ・・・・・宮前 義和

 私は、教育学部附属教育実践総合センターの教員です。また、教育学研究科学校臨
床心理専攻の教員として、学生指導、心理臨床に関する実習、昼夜間開講の授業など
をしています。

 教育実践総合センターは、教育学部の附属施設で、1)公開講演会など研修会の開
催、2)教育上の諸課題に対応した研究の推進、3)「香川大学教育実践総合研究」
の編集、4)センターニュースの発行などをしている他、各専任教員がそれぞれの専
門をいかした相談活動をしております。例えば、教育実践研究部門では「学校園・教
員によるカリキュラム開発・教育実践・授業改善について」、「学習環境や情報環境
の構成・改善と情報活用実践について」(いずれもリーフレットから抜粋)の相談を
受けつけています。私は教育臨床研究部門に属しており、教育実践総合センター教育
相談室を開設しています。今年で開設10年目になりました。

 教育相談室では、学校の先生方からの相談を中心に、学校で生じる様々な課題(不
登校や発達障害等)に対応してきました。開設した翌年(平成12年度)の合計相談
回数は115回、その翌年は263回と倍になりました。その後は、例年30事例ほ
どの相談があり、平成17年度の合計相談回数は388回でした。当相談室は、日本
臨床心理士会(編)の「臨床心理士に出会うには」や香川県教育委員会発行の「かが
わメンタルヘルスネット(養護教諭が行う健康相談活動 補助資料)相談機関の内容
別窓口一覧」にも掲載されましたが、ほとんどの相談は口コミで広がったものです。
しかし、年間400回近い相談活動を私1人で対応することは不可能になり、教育実
践総合センターで協議を行った結果、平成18年度からは新規の相談は受けつけず予
約待ちにさせていただいています。学校における諸課題に地道に対応していくことが
重要な地域貢献であることはわかっているのですが、なかなか難しくなってきている
のが実情です。

 それではどうしたらよいのでしょうか。私は、学校の教育相談機能を高めていくこ
とが鍵になると思っています。次回以降、そのことをお話したいと思います。
(みやまえ よしかず、教育学部准教授、臨床心理学)

   香川大学メールマガジン  第114号   2009年2月26日

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教育実践総合センターの教員として 第2回 地域の学校とともに(1)
・・・・・・宮前 義和

 前回、学校で生じる様々な課題(不登校や発達障害等)に対応するために、学校
の教育相談機能を高めることが鍵になるのではないかと記しました。今回は、その
ことについてお話したいと思います。

 教育相談とは、1対1の面接相談(カウンセリング)を意味することもあります
が、カウンセリングを必要とする子どもに限らず、学校に在籍するすべての子ども
たちのことを考えて学校という場を整えていくことも意味しています。

 学校という場を整えるというのは、例えば、子どもたちと先生との関係を良好な
ものにして、日頃、色々な話ができるようにする(子どもをとりまくソーシャルサ
ポート(社会的支援)を整える)、落ち着いた学級で、のびのびと生活できるよう
にする、といったことです。

 学校という場を整える教育相談のことを、予防的教育相談といいます。スクール
カウンセラーや外部の専門機関(教育センターなど)の支援を得て、狭い意味での
教育相談(面接相談)を充実させることも重要ですが、予防的教育相談も大切です。

 予防的教育相談とは、危険なこと(例、インターネットの有害サイトなど)に子
どもたちが近づかないようにすることも含みますが、むしろ、そうした危険なこと
も含めて子どもたちの対応能力を培っていくこと、子どもをとりまく教員や保護者
などの支援の輪を整えていくことに力点がおかれます。

 例えば、私もスクールカウンセラーをしておりますが、子どもや保護者とスクー
ルカウンセラーとの間を教育相談担当教員がつないでくれます。教育相談担当教員
は、他の教職員との連絡・調整もしてくれます。関係者間の調整には、異なる考え
を持つ者をつないで、教育相談が円滑に進むようにすることも含んでいます。こう
した調整作業は、学校の教育相談機能を高めるためには極めて重要です。次回は、
子どもたちの対人関係能力(社会的スキル)を培う予防的教育相談を紹介します。
(みやまえ よしかず、教育学部准教授、臨床心理学)
 
   香川大学メールマガジン  第115号   2009年3月12日

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教育実践総合センターの教員として 第3回 地域の学校とともに(2)
・・・・・・宮前 義和

 前回、学校で行う教育相談として、1対1の面接相談に限らず、学校という場を
整える予防的教育相談も重要であると記しました。今回は、学校の先生方とともに
実践している予防的教育相談の一例として、子どもたちの対人関係能力(社会的ス
キル)を培う試みを紹介しましょう。

 社会的スキルとは、わかりやすく言えば、人と接する時のコツです。ご近所の人
と出会った際にあいさつすることや、ケンカなどのトラブルを解決することまで、
対人関係に関する活動全般を含んでいます。

 子どもたちの社会的スキルを培う試みのことを、社会的スキル訓練(ソーシャル
・スキル・トレーニング:SST)といいます。訓練というと、改まった感じがし
ますが、練習ということです。SSTでは、とりあげる社会的スキルを決めて、教
員がモデルを示したり(例、人の話の聴き方を示す)、子どもたち同士がロールプ
レイをしたり(例、聴き手と話し手を決めて対話をする)、振り返りをしたり(例、
話の聴き方を学習してどのように感じたか話しあう)します。大切なことは、SS
Tを通じて学習したことを、日頃の生活の中で生かしていくことです。そのために
は、日頃から教員自身がモデルになることや、教員や保護者の声かけなどが重要に
なってきます。

 SSTの効果としては、子どもたちの社会的スキルの向上や、孤独感の減少など
が知られていますが、年間を通じて不登校が生じなかったことも報告されています。
SSTそのものの効果もあるのでしょうが、こうした予防的教育相談を学校に導入
することによって、教員間の連携が深まったり、子どもの見方が変わってくること
なども重要な要因になっていると思います。

 教育実践総合センターの教員として、教育相談室を開設・運営し、地域の先生方
と予防的教育相談を実践していることについて紹介させていただきました。現在、
日本全国で大学の改革が進められており、教育実践総合センターもどのような姿に
なるかわかりませんが、こうした地域貢献を今後も続けていきたいと考えています。

(みやまえ よしかず、教育学部准教授、臨床心理学)

   香川大学メールマガジン  第116号   2009年4月9日