★☆★☆ ⇒《話題!!》
家族教育における倫理ガイドラインってなんだ?
・・・・・片田江 綾子先生に聞く・・・・・
――研究テーマに「家族教育における倫理ガイドライン」とありますが、そもそも、
家族教育って何でしょう。聞き慣れない言葉です。
かただえ:文字通り、家族や家庭生活に関する教育のことです。私はアメリカのミ
ネソタ大学(University of Minnesota)で教育学のPh
.D.を取得したのですが、その時の専攻がfamily education、
家族教育でした。
――家族や家庭生活のこと、わざわざ教育しなければならないのですか。
かただえ:良い質問ですねぇ。すでに楽しくなってきました。私たちは家族や家庭
生活のこと、どのくらい知っているのでしょうか。自分とほんの限られたまわりの
家族のことしか知らないのでは。だから、きちんと教育として位置づける必要があ
るのです。ほんの少しの知識を持っているだけで、家庭生活がより快適になったり
することって結構あるものなのです。アメリカでは生涯学習として位置づけられて
いる家族教育ですが、日本では主に学校教育のなかに位置づけられています。学校
教育のなかの家庭科で。ところで、家庭科はどんな教科ですか?
――料理とか裁縫とか。
かただえ:ブブブー。悪い答えですねぇ(笑)。料理ではなく調理実習、裁縫では
なく被服実習といってください。科学的な知が背景にありますから。それはともか
く、家庭科は、食生活、衣生活、住生活と環境、保育などさまざまな内容を扱って
いる、面白い教科なのですが…でしょ?
――は、はい。
かただえ:その中に、家族や家庭生活に関する領域があるのです。この領域では、
家族の機能、親子関係、結婚や離婚、少子高齢化問題、家族法など、実にさまざま
なトピックが扱われています。家族教育というのは、この領域の教育のことを指し
ます。前置きが長くなりましたが、この家族教育における倫理ガイドライン策定が
早急の課題であると私は考えています。
――それはなぜですか。
かただえ:家族教育で扱うトピックは、生徒のプライバシーを侵害したり、傷つけ
たりする可能性があるからです。例えば、ある先生が「男女が協力して家庭を築く
ことが大切です」と強調すると、ひとり親家庭の生徒が傷ついてしまうかもしれな
い。また、ある先生が「やすらぎを得るといった情緒的な面が家族の機能として重
要です」というと、家族関係のうまくいっていない生徒が傷ついてしまうかもしれ
ないのです。先生が意図していなくても。
それでね、ここからが深刻な問題なのですが。最近では、家庭科の先生方が「家族
の領域は教えるのが怖い」とおっしゃるのです。とても大切な領域なのに、「つい
避けてしまう」とか「無難に終わらせてしまう」と。そういった声をきく度に、こ
れは深刻な事態に陥っているぞと思ったんですよ。教えることを避けたり、授業を
無難に終わらせたりするというのは簡単なことです。でも、家族の領域は積極的に
扱わなければならない重要な領域でもあるのです。…ちょっと興奮してきました。
――落ち着いてください(笑)。
かただえ:はい(笑)。そこで私たちに求められるのは、生徒個人、生徒全体、教員
自身にとって、「win‐win situation」を追求していくことです。
これは、教員と生徒双方にとって、「win」な状況です。具体的にいうと、教員
も生徒も教育目標を達成でき、誰も傷つかない状況です。なるべく、ね。
――「win−win situation」にするためには、どうしたら良いの
ですか。
かただえ:良い質問ですねぇ。それぞれの先生が自らの経験や知識から正しい方法
を導き出すことができれば良いのですが、これはそう簡単にできることではありま
せん。まずは、先生方にとって指針となるガイドラインを明確にすることでしょう。
そのためには、すでにガイドラインを示している国を参考にしながら、日本流ガイ
ドラインを策定しなければならないと思います。それが、私がいま取り組んでいる
「家族教育における倫理ガイドライン」研究なのです。
ラッキーなことに、「家族教育における倫理ガイドライン策定のための日米比較研
究」という研究課題で科学研究費をとれたので、アメリカと日本で授業観察やイン
タビューを実施し、数年後には片田江流ガイドラインをバーンと発表したいと思い
ます。お楽しみに〜!
…あら、いい具合に美しくまとまったよ、インタビューが。
――助かります(笑)。
かただえ:話がまとまったことだし、そろそろ帰り支度をするね。愛する夫と息子
と過ごす時間だわ。息子のカブトムシの世話もしなくちゃいけないし。今日はどう
もありがとう。楽しかったです。
――こちらこそ、ありがとうございました。研究もカブトムシの世話もがんばって
ください。
(かただえ あやこ、教育学部准教授、家庭科教育・家族教育)
香川大学メールマガジン 第122号 2009年7月9日