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学校経営様式の日独比較:第1回学校経営とは何か?―――――――――柳澤良明

 私は、「研究テーマは何ですか」と聞かれて、いちばんよく答えるのが「学校経
営様式の日独比較」という言い方です。こう答えると、おそらく「学校経営とは何
か?」、「経営の様式とは何か?」、「なぜ日独比較か?」といった疑問が出てく
ることでしょう。これから3回にわたって、これらについてご説明することにいた
します。まず今回は「学校経営とは何か?」です。
 学校経営とは、簡単にいえば、「学校での教育活動のために、学校に関わる人(
人的資源)、学校にある物(物的資源)、学校に与えられたお金(財的資源)をも
っとも有効に活用して最大の成果を上げる営み」です。教育学という学問の中に学
校経営学という研究分野があります。もちろん、経営というのは企業で行われる営
みでもありますし、学校での経営と重なる部分があります。しかし、学校での経営
の「最大の成果」は子どもたちの人間形成です。ここが、学校での経営と企業での
経営との大きな違いです。
 よく、「学校を作ってお金儲けすることでは?」という人がいます。そうではな
く、「最大の成果」を上げるためにはどのような学校組織であるべきかといったこ
とや、学校にある施設や設備をはじめとした環境をどのように整備していくべきか
ということが、よく論じられるテーマです。かりにお金に関することでも、公立学
校であれば、学校に与えられる予算は決まっていますので、どのように予算を増や
すかということよりも、いかに予算を有効に活用するかという話になります。
 私の関心は、もう少し詳しく言えば、学校経営の中でも人に関わる事柄、とくに
物事の決め方にあります。たとえば、「学校での教育活動は誰がどのように決める
べきか」といったことです。このことを専門用語では、「学校の意思形成」といい、
「学校の意思形成における学校当事者は誰か」という問いになります。日本の学校
の場合、これまでは学校当事者は教職員のみであると思われてきました。しかし近
頃では、新しい制度ができ、少しずつ変わってきています。これは、保護者や地域
の方々が「学校の意思形成」に参加するという制度が導入されてきていることに端
的に表れています。
(やなぎさわよしあき、教育学部教授、教育学(学校経営学))


   香川大学メールマガジン  第76号   2007年5月24日

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学校経営様式の日独比較:第2回 経営の様式とは何か?―――――――柳澤良明

 前回は、「学校経営とは何か?」という点についてご紹介しました。今回は、「
経営の様式とは何か?」についてです。
 学校で経営の様式といえば、学校経営の取り組み方の特徴を示すものです。前回
のお話でいえば、「学校での教育活動は誰がどのように決めるべきか」の答にあた
る部分です。たとえば、この答は国や時代により異なります。日本の公立の小、中、
高等学校の場合、校長先生が決めたり、場合により職員会議や企画委員会と呼ばれ
る会議で話し合った結果にもとづいて校長先生が決めることが多いといえます。い
ずれにしても決めるのは、校長先生を始めとする「教職員」です。
 しかし、こうした学校経営様式に少しずつ変化が生じてきています。昨年(20
06年)12月に改正されました教育基本法の中には、「学校、家庭及び地域住民
等の相互の連携協力」(第13条)が盛り込まれました。これは、学校の意思形成
に保護者や地域の方々が関与する制度が導入されていることを反映しています。す
でに2000(平成12)年4月から学校評議員制度が、2004(平成16)年
9月からは学校運営協議会が設置できるようになっています。これらは、各学校に
必ず置かれる機関ではありませんが、連携協力を重視する数多くの学校ですでに導
入されています。
 前者の学校評議員制度は、学校評議員として委嘱された保護者や地域の方々が校
長先生の学校経営や学校での教育活動に対して、求められた範囲で意見を述べると
いう制度です。たしかに、学校評議員から出された意見をどのように学校経営に活
かすのか、教育活動の改善に活かすのかは、すべて校長先生に任されています。こ
の点で、学校評議員は意見を述べるだけともいえます。しかし、校長先生の学校経
営に対して、あるいは学校での教育活動に対して、公的な場で意見を述べることが
できるという制度は、日本の学校教育の歴史の中では画期的なことです。
 ちなみに現在、設置率でいえば、幼稚園では3分の1程度ですが、小・中学校で
は8割以上、高等学校では9割以上に達しています。もちろん、取り組みの実際は
各学校により多様です。制度が導入されていても、活用の仕方が異なるためです。
成果を生み出せるかどうかは、各学校での学校経営のあり方に左右されます。
(やなぎさわよしあき、教育学部教授、教育学(学校経営学))


   香川大学メールマガジン  第77号   2007年6月7日

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学校経営様式の日独比較:第3回 なぜ日独比較か?―――――――――柳澤良明

 「経営の様式とは何か?」のお話の途中でした。後者の学校運営協議会という制
度はまだ新しいため、現在はまだ徐々に広がりつつある段階にあります。学校運営
協議会には、学校評議員制度よりも強い権限があり、重い責任が求められています。
学校評議員制度では評議員が個人的意見を述べるのを基本としているのに対して、
学校運営協議会では委員が話し合う会合での活動を基本としています。
 このように、「学校の意思形成」だけを取り上げても、「経営の様式」は進化し
ています。これを諸外国の取り組みと比較すると、さらに日本の取り組みの特質が
見えてきます。そこで、今回の「なぜ日独比較か?」についてです。
 私はこれまで、おもにドイツでの取り組みを研究対象としてきました。「学校の
意思形成」に関して、ドイツでの取り組みは日本と大きく異なりますが、とても魅
力的だからです。たとえば、「学校での教育活動は誰がどのように決めるべきか」
の答は、ドイツでは「教職員」ではなく、「教職員、生徒、保護者」です。ドイツ
では、「学校の意思形成」に生徒や保護者も参加しています。ドイツには16の州
があり、州によって若干異なる点もありますが、一般には学期毎に開かれる「学校
会議」という会議で、教職員代表、生徒代表、保護者代表が議論して決定したこと
が学校の最終的な決定となります。生徒代表を務めているのは高校生くらいの子ど
もたちですが、一定の権限をもって活発に参加しています。保護者代表だけでなく、
生徒代表も参加して議論するというのは、実にすばらしいしくみだと思います。
 実は、日本でも近年、同様の取り組みが行われています。香川県立志度高等学校
では、私が立ち上げに加わった日本版「学校会議」に取り組んでいます。いま、こ
の学校はとても活気に満ちています。生徒がますます元気になっています。生徒に
とって、「真剣に議論していけば、学校がかわる」という経験が大きな財産となっ
ているからです。「なぜ日独比較か?」の成果の一つです。
 この他にも、私が関心を持って取り組んでいるテーマは数多くあります。日本の
教育改革に関わるテーマの大半がそうです。そのため、各地の教育委員会や学校な
どからお仕事をお引き受けすることも多く、よい勉強の機会になっています。
(やなぎさわよしあき、教育学部教授、教育学(学校経営学))


   香川大学メールマガジン  第78号   2007年6月21日

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