★☆★☆ ⇒《研究室の小窓》
1.「人のつながりと研究の広がり―授業を通して」――――――――北林 雅洋

 この10月で、香川大学に来て三年になります。ありがたいことに、人のつなが
りが広がる中で研究も広がり、研究の広がりに伴って新たな人のつながりもできて
いく、そういう経験をすることがしばしばありました。ここでは、そのような経験
のいくつかを、授業・卒論指導・地域それぞれを通しての場合に分けて紹介させて
いただきます。
 今回は授業を通して。
 小・中学校の理科では地学分野の位置づけが弱く、高校でも地学の履修は非常に
少ない状況。そのような学習の履歴で小学校の教員を目指している大学生たちが、
宇宙における地球の特殊性をしっかり認識できるよう、まず砂や土をじっくり観察
してもらうことにしています。砂を一回見てそれで終わりというのではなく、標本
として残すことができるもの、しかも小学生にも手軽に作ることができるような標
本、そういう標本にするにはどうしたらよいかと、授業準備のぎりぎりまで試行錯
誤・思案した結果、「砂のしおり」を考案することができました。付箋紙の糊の部
分に砂をつけ、その横に採取場所・年月日を記し、名刺サイズでラミネートする、
というもの。ルーペや実体顕微鏡で拡大すると、ひとつひとつの砂粒がはっきりと
らえられます。その授業の後、実家に帰ったついでとか部活の遠征のついでにと、
砂のお土産を持ってきてくれる学生が理科領域以外でもちらほら。理科の教師の集
まりで「砂のしおり」を紹介したところ、それぞれの地域の砂を送ってくれる先生
方も現われ、全国各地の砂の標本が集まりつつあります。それら砂標本を用いた教
材開発について研究中です。
 また、「初等理科教育法」という授業の準備のためにと、理科以外の教科書で扱
われている自然科学的な内容について調べてみて、扱われている内容の豊富さに驚
きました。理科の教科書の貧弱さも改めて痛感しました。そのような問題点と他教
科との関連づけを意識したカリキュラム作りの必要性・可能性についてまとめ、理
科教育学会で報告したところ、意外なほど反響がありました。そのようなカリキュ
ラムの具体化についても研究中です。
(きたばやし まさひろ、教育学部助教授)

 
   香川大学メールマガジン  第57号   2006年6月22日

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2.「人のつながりと研究の広がり―授業を通して」――――――――北林 雅洋

 昨年度の卒論指導の必要から、1月に思いもかけない方にお電話することになり
ました。25年前の学生時代にあることでたいへんお世話になった先生の、奥様で
した。「そういえばあの時の」と、ちょっとした想い出話も交えながら、快くこち
らの質問に答えていただけました。卒論生がテーマにしていたのは、戦後すぐの日
本の中学校理科教科書の起源について。占領軍によってもたらされたアメリカの教
科書をそのまま見習って作成されたと言ってよいのかどうか、それらアメリカの教
科書との比較もふまえて検討していましたが、日本の教科書の執筆者がわかれば、
より明確になるのでは、ということでそのことを質問したのでした。お答えは、そ
の点については知らない、ということで残念だったのですが。この方なら知ってい
るのでは、という情報は、1月初めに理科の教師の研究会が東京であって、その際
に知人から雑談の中で教えていただきました。その方が、お世話になったあの先生
の奥様だったとは。
 卒論生が比較検討したアメリカの教科書は「教育課程文庫」に含まれているもの
で、この「文庫」を所蔵している大学図書館は全国で10箇所ほどしかありません。
幸い、香川大学にも所蔵されていました。しかし目録化されていないため検索して
も見つけられません。私がその存在を知ることができたのは、昨年7月にひょっこ
り私の研究室に立ち寄ってくれた、東京の大学の知り合いのおかげでした。「貴重
な資料がここの図書館にあってそれをみてきた」と教えてくれたのです。さっそく
所在を確認し、理科に関連する文献の背表紙も眺めておいたので、卒論生の研究が
進展していく中で、「こういうのもあるんだよ」と、それらを示すことができまし
た。また、学部の教員の中で「教育課程文庫」に興味を示してくださった方たち(
理科以外の教科ですが)と研究会を始めることもできました。卒論生にもこの研究
会で報告をしてもらいました。今年度に入ってこの研究会は休止状態になってしま
っていますが、そのうちまた、と考えています。
 この3月に『戦後日本の理科教育改革に関する研究』という本が出版されました。
著者は香川大学教育学部を卒業された方で、ここの「教育課程文庫」も重要な資料
として用いられています。貴重な先行研究です。
(きたばやし まさひろ、教育学部助教授)

 
     香川大学メールマガジン  第58号   2006年7月6日

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3.「人のつながりと研究の広がり」――――――――北林 雅洋

 理科教育の目標や評価について科学史・科学論に基づいて検討をすすめていく、
というのが私の理科教育研究の特徴です。科学史・科学論に関してもいくつかテー
マを持って研究をすすめています。幸い、こちらに来てから科学史の新たな研究対
象を得ることができました。それは、江戸後期に坂出の塩田開発などで活躍した久
米通賢です。
 きっかけは、同僚である地学教室の松村先生に誘っていただいて、科研費特定領
域「江戸のモノづくり」の公募研究に、研究分担者の一人として応募したことでし
た。恥ずかしながら、それまで久米通賢に関して全く知識もなかった私ですが、応
募書類作成段階でも採択後も、学外の方たちが参加されている研究会に加えていた
だいて、皆さんの研究発表をうかがったり、いろいろ教えていただいたりしている
うちに、何とか私なりに研究として位置づけることができるようになりました。
 研究会には、本学名誉教授の木原先生はじめ、鎌田共済会歴史博物館、香川県歴
史博物館、東かがわ市歴史民族資料館、大阪市立科学館の学芸員の方たち、若手の
日本史研究者の方たちが参加され、天文学史、経済史、銃砲史、海運史など、さま
ざまな視点から議論が展開されました。器物資料のデータベース化の作業も、あま
り役に立たなかったとは思いますが少しお手伝いしました。自分とは異なる分野・
視点からの議論を聞いたり、実際に器物資料に触ってじっくり眺めていたりするな
かで、何かの拍子に新しい問題意識が生まれたりします。若手の方たちのひたむき
な作業ぶりを見ていて、忘れかけていたものを思い出したりもします。
 研究会などを通して私が着目するようになったのは、製糖用の搾車「砂糖車」で
す。木原先生が経済史の面からとりあげておられたのですが、私は技術的な面から
とても気になっています。「生活科研究」という授業で学生について行って四国村
を訪れ、砂糖車の実物を見ていたこともあって、それらの製造および普及に関わる
技術的な問題が、気になるのです。久米通賢は、同じ讃岐の先輩である平賀源内に
ついては何も書き残していないようですが、源内は中国から伝わった『天工開物』
(1637年)に記された図をもとにそれを改良した砂糖車の図を残しています。
源内とのつながりを探る上でも、砂糖車が気になって仕方ないのです。
(きたばやし まさひろ、教育学部助教授)

 
     香川大学メールマガジン  第59号   2006年7月20日

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