★☆★☆ ⇒《話題!!》 
「間合い」に学ぶ・・・・・・・・・・山神眞一先生に聞く・・・・・・・・・・

――先生のご専門は運動学・体力学ということですが、剣道の達人でもいらっしゃ
るので、今日はどのようなお話が伺えるのか、たいへん楽しみにまいりました。
やまがみ:いやいや、こちらこそ、お手柔らかによろしくおねがいします(笑)。

――もともと剣道をされていたことが、現在のお立場やご専門に繋がったのですか。
やまがみ:剣道は小学校6年の頃からやっていて、教師になりたいという思いはあ
ったのですが、大学在学時の指導教官から進学を勧められたことが、現在に至る道
のりのはじまりです。「人との出会い」は本当に大事ですね。本学に来たのは22
年前になるのですが、当時は、まさか母校に職を得られるとは想像もしませんでし
た。大変に有り難いことだと思っています

――先生は、大学の委員等の仕事でも非常にパワフルにご活躍なのですが、お気持
ちの中には、香川大学ご出身ということもありますか。
やまがみ:そうですね。特に、今はいろいろな意味で本学が大変な時なので、自分
にできることは何かを考えるようにしています。でも、義務感でやっているのでは
ないんですよ。自分が動くことで人に喜んでもらう、ということが嬉しいのです。
人が喜ぶということを感じることが、自分のパワーになる。義務的な仕事でも、ま
ず自分が楽しまなくてはと思っています。

――自分が楽しめていると、周囲への対応も違いますよね。
やまがみ:そうそう。学生への対応も、難しいことはできるだけ噛み砕いて伝える
など、対象に合わせてできることを目指しています。指導者講習などで対応してい
る小学校の先生や、長寿大学を受講している高齢者の方など、対象によって伝え方
も変える必要がありますよね。相手がどう思っているか、どう反応してくるかを推
し量りながら対応していく、それがまさに対人関係ということで、剣道に通じるも
のがあります。相手によって、それなりの剣道をする必要があるのです。私も若い
頃は、試合に勝ちたいがために奇襲剣法に走ったりしていました。確かに、戦術的
にはそれもありですが、勝敗よりも、真に双方が満足できる試合であることが大事
です。相手がどう攻めてくるかを量りつつ、自分の技をどう出していくか、そのコ
ミュニケーションによって、勝っても負けても双方が満足できる戦いができるので
す。相手を満足させる試合だったという思いは自分も満足できる、それが剣道から
学んだことのひとつです。

――「打って反省、打たれて感謝」という言葉を聞いたことがあります。
やまがみ:よくご存知ですね。「打って反省」は、卑怯な勝ち方でなかったか、相
手も満足する試合だったかを考えること、「打たれて感謝」は、自分には打たれる
理由があり、自分の弱いところを教えてくれたということです。こう考えられると、
人間的余裕ができてきますね。「剣術」というとテクニックや打ち方ですが、「剣
道」というと「道」が示すように、打つときの心構えや打った後の気持ちの持ち方
を重視する。「型」を重んじるのです。単純な繰り返しの中に作法があり、そこに
心の持ち方なども凝縮されています。「左座右起(さざうき)」など、所作・ふる
まいに格調がありますし、「礼にはじまり、礼を持って行い、礼に終わる」という
ときの「禮」には、心が入っていないと豊かでないということを示してますよね。
すなわち、お互いの人格を示すことになるのであって、そういう感性を備えてない
相手とは二度と戦いたくないということになります。これは、仕事をするうえで、
どのような人と一緒に仕事をしたいかに通じると思います。お互いに豊かでありた
いものです。

――大学では、最近とくに、初対面の顔ぶれで、すぐに結果を出さなければならな
い、というような場面も増えてますよね。
やまがみ:そうなんですよ。相手を認めあいながら、解りあいながら進めていくに
は、時間的余裕がないとだめ。そこで、飲み会も大事なんですよ(笑)。皆さんが
忙しい時だから、幹事を引き受けてくれる方にはご苦労なんですが、最近はポジテ
ィブに話ができる状況が減っている気がするし、貴重な時間になりますよね。上に
立つ方、力のある方には、是非そんな状況をわかってもらいたいですね。

――とはいえ、特定の人とだけ、近づきすぎるというのも困りものでしょう?
やまがみ:「間合い」が大事ですね。相手の懐にまで入るような「近間(ちかま)」
に対し、「遠間(とおま)」というのは、お互いがお互いの領分に入り込むかどう
かを計っているのであって、まさに「一足一刀(いっそくいっとう)」の間合いで
すね。いい緊張感の中で相手から学ぶ、また、この学び方の間合いというのもあり
ます。しかも、お互いがそれを感じ合う関係だと長続きする、すなわち高めあって
いける関係ですね。「近間」だけしかない人は、豊かさに欠けるというか、自信が
なくて相手を取り込みたいか、自己中心的なのでしょう。ただし、運命共同体であ
る家族の中では、「近間」もOKですが。

――親子関係の中での「近間」ということも、最近では難しい面があります。
やまがみ:特に男の子の自立への道は難しいですね。間合いの視点から考えると、
「ちょっと離れて、きっちりサポート」ということが重要だと思います。まずは「
気にかける」、最初は見えるものからということですね。次に「目をかける」、視
覚的に見えるものから徐々に微妙なところに気づく、心の作用です。ここに間合い
の問題が出てきます。一足一刀の間合いが大事です。さらに「声をかける」、ここ
から本当の大人としての関わりが始まる、「近間」ができたということですね。そ
して「手をかける」。今の親子関係は、「手をかける」が先になっていて、見えて
いないのに手をかける傾向があるのではないでしょうか。乳幼児期の体験は、失敗
も含めて非常に大事です。自らの身体を使って様々な体験をすることが重要です。
近年、香川県の子どもたちの体力低下が顕著で、特に小学校低学年では全国に比し
て随分落ちているのですが、これに乳幼児期の体験のあり方が少なからず影響して
いるのではないかと考えています。そこで、現在、就学前の子どもたちの運動や遊
びということに注目しています。発達・発育に応じた運動・遊びについて運動学・
体力学の面から検討しながら、保育士や幼稚園の先生などを対象とした指導者講習
も実施しているところです。

――香川県教育委員会からも期待されている取り組みと聞いています。益々ご活躍
ください。今日は我々に「近間」ができる楽しい時間をありがとうございました(笑)
(やまがみしんいち、教育学部教授、運動学、体力学)


   香川大学メールマガジン  第21号   2004年9月30日