★☆★☆⇒《話題!!》 
ハイテクを使った人間支援・・・・・・中邑 賢龍先生に聞く・・・・・・・・・

 今回は、障害を持つ人々の自立支援の方法を研究しておられる中邑賢龍先生をお
訪ねしました。テクノロジーを用いたコミュニケーションの拡大に取り組んでいら
っしゃいます。研究交流棟にある電子情報支援技術研究センターで、最新の動向に
ついて伺いました。

――今回はじめてお訪ねしたのですが、随分いろいろな道具や機器がありますね。
なかむら:そうですね。ある意味、ここでは道具や機器を集めるのが仕事の一つで
すから。たとえばこのボード、何に使うと思われますか。

――えーっと、何でしょう。20×50cmぐらいのパレットに、ハンバーガーや
飲み物の絵のシールが貼ってありますね。何か学習、翻訳などに使うのでしょうか。
なかむら:やってみましょう。右下のボタンを押して「ジュースをください」、こ
れで録音できました。飲み物のシールが貼ってあるところを押すと、「ジュースを
ください」と流れてきます。これでメッセージが伝えられるのですね。シールの箇
所それぞれにメッセージを入れられます。つまり、必要に合わせて使えるのです。

――障害を持つ人だけでなく、私たちも言葉が通じないところで使いたいですね。
なかむら:これに自動翻訳機能がついていたらもっと便利でしょう。会話を助ける
といえば、こんな簡単なものもありますよ。長さ1mぐらいの細いチューブですが、
片方を相手の耳に掛け、他方の漏斗型を使って話すと小さい声でも聞こえます。耳
の聞こえづらい人と普通に話せる。お年寄りの耳元で大声を出すこともないのです。

――本当に簡単なものですが、これを使うことで生活が変わるでしょうね。
なかむら:そうですね。障害を持ったときに、支援される道具があることを知って
いるかどうかで違ってくるということです。障害にはさまざまなものがありますか
ら、日常の生活を助ける道具もあらゆるものが作られています。たとえば、記憶を
助ける道具もありますよ。このキーケースはご存じですか。鍵を掛けた後これに入
れておくと、差し込んだ時刻が記憶されます。表面はデジタル時計ですが、ボタン
を押すと記憶された時刻が表示されるのです。リマインダーといいます。ふだんの
生活でも、外出後に家の鍵を掛けたかどうかわからなくなることがありますね。そ
んな時にこの表示を見れば確認できるわけです。

――これは今すぐ私たちにも役立ちますね。研究室の鍵をかけ忘れたのではと心配
になって戻る、ということがなくなります。先生方にもお勧めしたいですね。(笑)
なかむら:われわれの生活を支援してくれるといえば、こんな機器も役立ちそうで
すよ。本を乗せるだけで拡大してくれるもの、ボタンにちょっと触れればページを
めくってくれるものもあります。

――先ほど、研究室の方で見せていただいた、手を使わないでパソコンを操作する、
というような大がかりなものから、ほんの簡単な道具のようなものまで、本当にい
ろいろなものが揃ってますね。
なかむら:ここではハイテクからローテクまで集めているのですよ。かつては障害
者用に特別の機器が作られていましたが、現在は転用するのが一般的です。技術は
刻一刻と進み、可能性は無限に広がってきているのですね。このような製品情報の
集積機関がここというわけです。ここでは世界中の製品情報をこの10年集めてい
て、ガイドブックとして発行しています。最新版には913件(関連製品を含める
と1,435件)を掲載し、ホームページでは毎月更新して最新情報を配信してい
ます。つまり、企業のニーズと障害を持つ人たちのニーズを結びつけることが、こ
こでやる仕事です。

――機器の技術が進めば、障害に対する考え方も変わるのではないでしょうか。
なかむら:その通りです。例えば、立位ができる車椅子、ベッドにもなるし左右に
回転できる車椅子もあります。数キロ先まで歩くとすると、私たちより彼らの方が
早く疲れずに行けますよね。つまり、障害によって人生がだめになると思わなくて
良くなってきたということです。障害を消すことを考えるのも重要ですが、障害を
悪いことと思わない社会を作っていく必要があります。人は死ぬ前には障害者にな
るわけですから、障害を持ったとしても良い人生だったと思える、そんな社会シス
テムの構築が求められていると考えています。障害があってもいいじゃないか、と
思える社会を作ることが目標です。

――それが実現すると、安心して高齢期を迎えられますね。いまの日本は、家族が
介護に奮闘しているのが現実ですが、介護する側・される側もラクになりますね。
なかむら:テクノロジーが人々の生活の質を高める道具であることは確かです。障
害を持つ人を支援する技術は進んでいるのに、それらを誰でも簡単に選択でき利用
できるところにはまだ来ていません。その人にふさわしいコンピューターやコミュ
ニケーション・エイドを選んだり、組み合わせたりするには高い専門性が必要です
が、高齢者や病気やけがで一時的に障害状態になることもありますから、専門的知
識がない人にも分かる形にしていく必要があると思います。近年では、誰にも使い
やすいというユニバーサル・デザインの取り組みや考え方が一般に普及しています
が、多くの人への対応は、ユニバーサル・デザインと支援技術を組み合わせること
が有効であると思われます。使いたい製品を使えるようにする技術支援を供給する
ことが重要であり、求められていると考えています。

 障害を不幸なことと思わない、そんな社会の実現のために今後もご活躍ください。
今日は見学もさせて頂き、元気になる楽しいお話をありがとうございました。
(なかむらけんりゅう、教育学部助教授、障害心理学)


   香川大学メールマガジン  第14号   2004年5月13日