★☆★☆ ⇒《話題!!》
古本に魅せられて・・・・・・・田村 道美先生に聞く・・・・・・・・・・・・

 物の古さにはそれ自体、独特の魅力がそなわるらしい。ましてそれが時の風雪に
耐えた知的宝庫ならば。絶版文庫の著書まで出してしまった田村先生に古本の魅力
についてうかがった。

──すごい本の数ですね。
たむら:ある人が初めて私の研究室を訪ねてきたとき、床や机の上に積んである本
の山を見て、部屋中にタケノコが生えているみたいですね、と面白い表現をしたこ
とがあります。

──たしかにタケノコの山ですね...、地震には弱そうですが(笑)。
たむら:はい。阪神淡路大震災のときには、ひどい目にあいました(苦笑)。

──このようにたくさんの本を集めるようになったきっかけは?
たむら:いろいろありますが、ひとつには、ある本が急に必要になったとき、探し
てもなかなか見つからないという苦い思いを何度も味わったことでしょうか。二十
数年前には、全国の大学の附属図書館の蔵書を検索できる「ナクシス・ウェブキャ
ット」や日本の主な古本屋の在庫品を調べられる「スーパー源氏」といった便利な
検索エンジンなどありませんでしたから。

──当時はどうやって本を集められたのですか。
たむら:古書店から目録を送ってもらって注文したり、全国の主だった古書店に直
接出向いて探したりしていました。必死で探している本が見つかったときには、そ
のタイトルが目録や本棚からこちらの目に飛び込んでくるという経験を何度もしま
した。

──すごいですね。痛くはありませんでしたか(笑)。
たむら:いや、すごい快感でした(笑)。ただ、目録の場合は探求書を見つけても、
必ずしも手に入るとはかぎりません。希望者が複数いると、抽選になるからです。
電話で注文を受ける店もありますが、地方の悲しさで、目録の配達が東京などより
は遅れますので、電話をしてもだいたいダメですね。一番悔しかったのは、ジェイ
ン・オースティンの『愛と友情』と『ケァサリンの結婚』を見つけたときですね。
この二冊は非常に出にくい本で、専門店での古書価は三万円前後です。それがある
古書店の目録にそれぞれ千円で出ているのを見つけました。その店は電話注文がで
きるので、あわてて電話を入れましたが、「たった今売れてしまいました」との返
事でした。悔しくて悔しくて、その夜は眠れませんでした。

──ところで、最近、相次いで絶版文庫に関する著書を出版されましたね。私もた
いへん面白く読ませていただいたんですが、絶版文庫に焦点をあてたというのはど
うしてでしょうか?
たむら:共著ですが、この三年間に東京の青弓社から、『絶版文庫三重奏』『絶版
文庫四重奏』『絶版文庫嬉遊曲』を出しました。文庫本はすぐれた古典をいつでも
安価で読者に提供するという趣旨で生まれました。しかし、現在では文庫のそのよ
うな性格が薄れてしまっています。出版界の利益優先主義、若者の活字離れ等があ
いまった結果かと思われます。このような状況を変えることはひじょうに困難です
が、文庫を本来の姿に戻したいという願いから、絶版になった名著名作を紹介する
本を出しました。拙著を読んでくれた読者が紹介されている作品に興味を持ち、出
版社にその作品の復刊を要望し、それによって絶版文庫の復刊が実現することを願
っています。

──これからの夢をお聞かせください。
たむら:十年ほど前から野上弥生子の読んだ翻訳作品や洋書を特定し、それを入手
し、さらには、それらの作品が彼女の作品にどんな影響を与えたかについて調べて
います。この調査過程でかなりの本を入手できましたので、昭和20年の空襲で灰燼
に帰した野上弥生子の蔵書をいつかはこの手で復元したいというのが現在の夢のひ
とつです。

──先生の夢が実現するのを心から願っております。
たむら:ありがとうございます。
(たむらみちよし、教育学部教授)


かがわだいがく Mail Magazine  第6号  2002年7月25日